土肥圭太に聞く、スポーツクライミング男女決勝の展望【東京五輪】
日本の楢崎智亜、野口啓代、野中生萌が男女の予選を通過し、いよいよ5日の男子決勝、6日の女子決勝を残すのみとなった東京五輪のスポーツクライミング競技。現役選手は、その戦いをどう見たのか。2018年のユース五輪複合金メダリストで、今大会の開会式に日本国旗を運ぶ役割で参加した土肥圭太に、予選の振り返りや決勝の展望を聞いた。
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――土肥選手は男女予選をどのように感じましたか? まずはスピードで気になった部分から教えてください。
「男女ともタイムが速くなった印象です。これまで3種目複合が行われた世界選手権や予選会だと、男子では6.8秒や6.9秒あたりを出せれば真ん中あたりの順位は固いというところでしたが、今回は6.5秒くらいを出さなければならず、だいぶレベルが上がりました」
――第2種目ボルダリングについては?
「男子はランジだったり体を反転してひっくり返すような動きがあり、あまりクライミングっぽくないというか、いわゆる“スポーツクライミングらしい”近代的な課題が多かったです。もし決勝で真っ向系の課題が出てきたら、順位が大きく入れ替わることもあると思うので、どうなるか楽しみですね。一方で女子はその真っ向系の“クライミングらしい”課題が並びました。男女で内容が対照的だったので、決勝ではそれを逆にしてくる可能性もあるのかなと。そうすると、女子決勝ではコーディネーション系がたくさん出てくる展開もあり得ますね」
――リードは男女とも高度が伸びませんでした。
「男女共通で、リードで強い選手が下部や中間部で苦戦していましたよね。22時前後という夜の遅い時間帯ということや、屋外で気温が高いことも関係していると思います。ルートの内容も下部から難しいようには見えなかったのですが、序盤から傾斜があることも影響してか、思ったよりも難しいのかなと思いました」
――選手には想定しているよりも負荷がかかっていたと。
「そうですね。一見持ちやすそうなホールドなんですけど、結局傾斜があるので、いつもより悪く(難しく)感じるというような。あとはこれも男女共通なのですが、けっこう蛇行させていたので、壁の高さに対してルートが長かったんだと思います。中間部で30手ほどはあったので」
――男子の優勝争いはどう予想しますか?
「バッサ・マウェム(フランス)が欠場となり、スピード1回戦で当たる予定の(優勝候補である)アダム・オンドラ(チェコ)が不戦勝になるかと思います。アダムがスピードで順位を稼げることになりますが、ポジティブに考えれば、スピード専門選手のバッサがいないため楢崎(智亜)選手が1位を取れる可能性が増えた。1位を取ることは順位をかけ算してその値の小ささを競う今種目では非常に大きいです。楢崎選手が1位を取れれば、アダムが4位以上になることでのダメージはそこまでないのかなと思います。そういった意味でも、楢崎選手は(予選で0.01秒差だった)ミカエル・マウェム(フランス)とのスピード勝負がカギになってきますね」
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――優勝の可能性がある選手はどのように見ますか?
「3種目の安定感からして楢崎選手には十分チャンスがあります。それと調子の良さからミカエル、ボルダリングとリードの課題内容によってはアダムとヤコブ・シューベルト(オーストリア)。この4人の争いにどれだけ他の選手が食い込めるか、という感じではないでしょうか」
――女子の展望はいかがですか?
「先ほど話したように、リードにおいては時間帯やルート内容など、普段とは違う要素があり、そこに戸惑っている選手が多い。それこそ優勝候補だったヤンヤ・ガンブレット(スロベニア)の状態も良くはない印象でした。
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今大会のリードは予選で対応しきれないと決勝でも対応できない可能性があると思っています。なぜなら決勝も予選と同じようなルート内容になると想像しているからです。男女とも予選は大きなボリュームにカチがついていることが多く、ボリューム、カチ、ボリューム、カチというような順番だったんですよ。今大会に用意されているホールドの種類的にその選択肢しかないと思うので、決勝も足はそれほど悪くないけど、手が悪くて、前腕に直接負荷がかかるような内容になる。
この仮定が正しければ、ヤンヤはリードでの調子の悪さを決勝まで引きづる可能性があります。予選でいまいちだったというメンタル的な影響もあるはずです。ヤンヤはスピードの決勝1回戦で専門選手のアヌーク・ジョベール(フランス)と当たるので、初戦突破は厳しいはず。スピードで上位につけ、ボルダリングでいい勝負ができれば、日本勢2人にもチャンスはあると思います」
――気になるのは野中生萌選手の手首の状態です。
「予選のボルダリングはガストンのピンチだったり、ハリボテをラップで持つような、手首に相当な負荷がかかる課題が多かったです。男子予選のように、悪いホールドで粘るというよりは、パッと一瞬耐えるだけといった動きが求められる課題が増えてくれれば、決勝は予選よりも負担が減ると思います」
――女子で優勝の可能性があるのは誰だと予想しますか?
「リードに不安があるとは言え、ヤンヤは優勝候補ですし、野口(啓代)選手、野中選手、そして予選の調子からソ・チェヒョン(韓国)もかなりいいところまで来そうです。男女決勝、楽しみにしています」
土肥圭太(どひ・けいた)
2000年10月17日、神奈川県生まれ。冷静沈着さを持ち味とし、ボルダリングを主戦場とする。世界ユース選手権2016ボルダリング、ユース五輪2018の複合を制すなどユース時代から将来を期待されると、シニア国際大会2年目の19年にW杯第4戦で4位入賞。同年の世界選手権代表にも選出された。20年には国内シニア大会初制覇をスピードで飾っている。高い洞察力と的確なコメントによる大会解説も好評。(写真:窪田亮)
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