今シーズン最大の山場。用意された五輪行きチケットは7枚/IFSCクライミング世界選手権2019八王子 大会プレビュー【コンバインド編】
東京・八王子で11日(日)に開幕するIFSCクライミング世界選手権。実施4種目の見どころをそれぞれ紹介していく連載の最後となる第4弾は、3種目複合のコンバインド。
今大会はスポーツクライミング初のオリンピック代表選考大会とされ、コンバインド決勝の男女各上位7名にはオリンピック出場枠が与えられるとされている(※)。オリンピックを目指す選手の多くはここに照準を合わせてくるはずで、今シーズン最大の山場になることは間違いないだろう。
競技は18日(日)に女子予選、19日(月)に男子予選、そして20日(火)に女子決勝、大会最終日の21日(水)に男子決勝を行う。
1人で3種目をこなすコンバインド。フィジカル、メンタルも重要
東京2020オリンピックでの実施フォーマットであるコンバインドは、「複合」の名の通りスピード、ボルダリング、リードの3種目をこの順番で全てこなし総合順位を競う。各種目の予選での順位を掛け算し、その数値が少ない上位8名が別日の決勝に進む。そして決勝で再びこの3種目に臨み、チャンピオンを決める。
コンバインドの予選には男女各20人しか参加できないため、今回の世界選手権では単種目順位の掛け算から20人に絞る。その際に対象となる順位は3種目全てにエントリーしている選手の中での順位となる。
コンバインドは選手への肉体的な負担が非常に大きいため、ベースとなる種目ごとの能力に加えて絶対的な体力がものを言う。さらに単種目と比べて戦略的な駆け引きの要素も強く出る。例えば最終種目のリードで挽回できるチャンスが無い選手は、最初のスピードで勝負に出る必要があるし、逆にリードで逆転できるならスピードではミスをせずそれなりの順位でまとめるというやり方もあるだろう。
狙い通りの展開に運べなかった場合に気持ちを切り替えられるメンタリティも重要だ。前回大会で日本人選手は男女ともにスピードで気負い過ぎてフォルススタートなどのミスが目立ち、それを引きずって結局誰も表彰台に立つことはできなかった。
より穴の少なくなった前回女王ガンブレット。追う野口、野中、ピルツ。
女子は誰もが分かり切っているがヤンヤ・ガンブレット(スロベニア)が圧倒的な優勝候補だ。ボルダリングとリードのどちらでも優勝を見込める実力があり、さらにスピードも最近では9秒台半ばを記録するなど決して苦手とは言えないレベルにまで引き上げている。また後半に逆転できる種目があることで、落ち着いてスピードに臨めることも精神面で有利だ。
対抗できるのは野口啓代、野中生萌、そして前回大会3位のジェシカ・ピルツ(オーストリア)だろう。野口は3種目のバランスが良いため最後のリードまで含めてどこかでチャンスが訪れることに期待したい。逆に野中はリードで高順位はおそらく狙っていないので、得意のスピードで引き離しボルダリングで互角に渡り合えば競り勝つこともできるはずだ。ピルツはリードでガンブレットに勝った経験が複数回あるため、最終まで逆転に望みをかけた戦い方ができる。
選手層の厚い日本男子。五輪代表内定を決めるのは?
男子は前回大会優勝のヤコブ・シューベルト(オーストリア)と準優勝のアダム・オンドラ(チェコ)が依然として強力である。この両者はボルダリング能力も高いが、リードの強さが1枚上をいくため、他の選手からすれば最終種目を前にしてこの2人にポイントで差を開けられていると絶望的だろう。
日本人は皆が3種目のバランスに優れ、コンバインドにエントリーしている楢崎智亜、原田海、藤井快、楢崎明智、土肥圭太の5人全員が決勝に残ってもおかしくはないほど層が厚い。中でも楢崎智と藤井はどの種目でも上位に食い込めるポテンシャルがあり、コンバインドに向いている。楢崎智は得意のスピードで首位を獲り、そのまま優勢をキープして逃げ切りたいが、決勝の定員が前回大会の6人から8人に広がったため、ファイナリストにスピードのスペシャリストが入ってくる可能性が高い。すると楢崎智はスピードでの首位獲得が難しくなるだろう。となるとやはり勝負を分けるのは第2種目のボルダリングとなるだろうか。
コンバインドは、その結果次第ではオリンピック日本代表の選考に直接結びつく。7位以内かつ日本人首位ならば代表が内定となるのだ。それぞれの選手にとって非常に大きな意味を持つ一戦となる。
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CREDITS
文 植田幹也 / 写真 窪田亮