FEATURE 112
「DOGWOOD」オーナーの購入事情
ジムはどんなホールドを求めている?
ホールドに関わる人物として忘れてはならないのが、ホールドを購入するジムオーナーである。今回は神奈川県川崎市と東京都調布市にあるクライミングジム「DOGWOOD」のオーナーで、ルートセッターとしても活躍し、ホールド愛好家でも知られる岩橋由洋さんに、その裏事情を聞いた。
※本記事の内容は2020年12月発行『CLIMBERS #018』掲載当時のものです。
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首都圏でクライミングジム「DOGWOOD」を2店舗展開されている岩橋さんですが、“ホールド愛好家”でもあると伺っています。
「クライミング歴18年ほどになりますが、ホールドには愛着があって、いまだ始めた頃に打ち込んでいた課題のホールドは覚えているんです。僕の場合はいろいろな大会でルートセットもさせていただいているので、ホールドを触る機会がたくさんあり、だいたいのメーカーのシェイプは把握しているつもりです」
ホールドの購入先は?
「展示会で新しいホールドを見たり、セットの際に手に取ったり、セッター同士で情報交換する中で、面白いなと感じたものを輸入代理店や国内メーカーに連絡して購入します。僕はセット時など圧倒的にホールドに接する機会が多いので、そのぶん恵まれていると思います。地方のジムオーナーさんだと展示会に行けず、近隣に他店も少ないため、新作などを見るのは大会中継やオンラインカタログなどに限られてしまいます。写真だとどれくらい指がかかるかなどがわかりにくいですし、購入しても届いてみたら想像より小さかったり、でかすぎたりして使いづらいといった失敗談はよく聞きますね」
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購入する際に意識していることはありますか?
「使い勝手の良さは意識していますね。例えばガバで、持つ反対側がスパっと切れていると、スラブ壁にアンダーで付けた場合は足で乗りづらく、強傾斜と緩傾斜の両方で使うことができます。あとはジムの傾向によって買い分けています。まぶし寄りの高津店(写真上)の場合は、岩場のためのトレーニングを目的に来るお客さんが多く、厚さのないホールドを入れています。壁にたくさんホールドを付けているので単純に邪魔になりますし、末端(指)で登るトレーニングにはホールドが大きい必要はありません」
調布店のほうはラインセット寄りですよね。
「調布店はコンペを意識しているので、壁の形状を変えられたり、立体的な動きを作り出せる大きいホールドを買っています。ラインセットだと壁に対する課題の本数が少ないので、『この課題登ってみたいな』と興味をそそられるような見た目も重視しています」
購入するタイミングは?
「基本的にはホールド替えのタイミングですね。セットする時に欲しいなと思うものを購入します。でも大会映像を見たりして、気になってどうしても欲しくなって、我慢できずに買ってしまうこともありました(笑)」
毎回、予算との戦いにもなりそうですね。
「なりますね(笑)、キリがなくて。ホールドは安くないので、ちょっと買ったら10、20万円は楽にいってしまいます。昔はひどくて、毎月毎月買っていたんですよ。お客さんからも『また買ったんですか!?』って言われるくらい(笑)。でも喜んでもらえるから、いいかなって。今はストックも増えたので、必要最低限に抑えています」
1つのホールドで最も高額だったのは?
「大きいボリュームで20万円近くのはあったと思います。でもそれはレアケースで、10万を超えるものはそれほどありません。それでも10万近いホールドはよくあるので、普通に考えたら高いですよね。セット売りが多いですが、少し大きいボルトで付けるようなサイズだと、安くて1個1万~1万5000円くらい。なので仮に予算が10万円だとしても、全体の壁の一部にホールドを追加する程度にしかなりません」
DOGWOODには相当数のホールドがあるのでは?
「高津店、調布店、さらに調布店は2階にも壁を建てたので、実質3店舗分で5000個は確実にあると思います。もしかしたら1万個かも……。DOGWOODは高津店ができたのが2014年と古くから営業しているわけではないので、廃棄するホールドもまだなく、増える一方です(笑)。他のジムさんだと、今はラインセットが多いので1000個とかじゃないでしょうか」
最後に、岩橋さんが感じるホールドの魅力を教えてください。
「最初に言ったように、僕の場合は『あの課題良かったなあ』よりも『あのホールド良かったなあ』なんです。ホールドには懐かしさが残りやすいというか。10年以上前のホールドは手に入らないですし、だからこそ収集癖をくすぐられるところがあります。どこか集めたくなるような、思い出があるもの。そこが魅力ですね」
CREDITS
取材・文 編集部
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PROFILE
岩橋由洋 (いわはし・よしひろ)
クライミングジム「DOGWOOD」高津店・調布店のオーナー。一方で日本山岳・スポーツクライミング協会公認のルートセット資格を持ち、様々な大会のセットで全国を飛び回っている。ホールド事情に精通し、ホールド収集が趣味。(写真:鈴木奈保子)