ルートセッターとは? 熱戦を演出する陰の主役

 人工壁を登る、スポーツクライミング。初心者からプロクライマーまで、当然ながら登るルート(課題)が必要であり、それを作り上げるのが「ルートセッター」(以下セッター)である。競技としてのスポーツクライミングでは、その3種目のうち、ボルダリングとリードは大会ごとに新しいルートで競われる。第三者が設定した毎回異なる環境下で順位付けを行うという意味では、他にはない特異なスポーツと言えるだろう。それゆえ競技大会においては、セッターの存在がその成否や勝敗の行方を大きく左右する。

 セッターの主な役割であるルート作成の際に求められるものは、大きく分けて以下の4つだ。

1.安全性

 まずは、選手の安全を保障することが大前提。ボルダリングでは「下方向へジャンプさせない」、リードなら「特に出だしで危険な落ち方をさせない」など、ルールブックに明文化されている事項もある。選手が想定外の動きをすることや、思わぬ危険が潜んでいることもあるので、あらゆるケースを考えた上で選手が安全に競技に集中できる環境を作ることがセッターには求められる。

2.公平性

 スポーツである以上、公平性は担保されなければならない。この点でも「予選が2グループに分かれる場合、似通った内容にする」といったように、ルールブックに書かれている条件がある。それに加え、特定のムーブに偏ったルートばかりにしない、身長による差を極端に出さないなど、一部の選手だけが有利不利にならないようにセッターは注意を配っているはずだ。

3.適切な難易度

 適切な難易度設定にルートを仕上げること。これがセッターの役割として最も求められるものだろう。順位を付けるためには、選手全員が1回で登っても好ましくないし、誰一人登れないルートばかりでもいけない。この難易度設定次第で大会の出来が大きく左右されるため、ここにセッターは一番、頭と体を使っていると言っても過言ではない。

4.盛り上がる内容

 大会には観客がいるので、盛り上がりを演出することも必要だ。また選手自身にも登る意欲を湧かせることで、最高のパフォーマンスを引き出すことができる。ルートのビジュアル、見栄えのするムーブ、選手の限界を引き出す内容。こういった要素が最後のピースとなり、観客や選手が一体となって盛り上がる大会の成功へと繋がっていく。

 セッターは事前にルートごとのテーマを決めたり、試登をする中でタイプの偏りをなくすなどして、大会の成功のために見えない努力を重ねている。他のセッターと議論し、納得いくまで調整し、また登って確かめる、ということを繰り返していく。そうすることで、私たちが大会で目にしているようなルートが完成するのだ。

CREDITS

写真 PZA / 植田幹也

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