先輩たちの背中を追って。日本最大級のボルダリング大会を支える、若手スタッフの奮闘

 国内最大のボルダリングコンペ、THE NORTH FACE CUP(ザ・ノース・フェイス・カップ/以下TNFC)を様々な視点から紐解いていく本特集。シリーズ第6弾となる今回は、2020年大会から大会運営の一員に加わった若手スタッフにスポットを当てる。 ※このインタビューは2020年2月21日に収録されました。

思いもよらない誘い 「大きなチャンスを与えてもらった」

 憧れの先輩たちの背中を追いかけ、奔走する若者がいる。島根正芳(しまね・まさよし)、1998年生まれの21歳だ。本格的なクライミング歴は約5年ながら、今年2月に行われた日本一を決める公式戦、ボルダリングジャパンカップ(BJC)に出場した実力の持ち主である。

 普段はここ『Base Camp Tokyo』(東京都板橋区)で受付やインストラクションなどの接客から、ショップや施設備品の管理、ルートセット、SNS更新業務まで幅広く担当しているが、その門を叩いたのは3年前だった。

 「クライミングに没頭したくて、高校卒業後はジムで働こうと考えていました。TNFCに何度か出場していたこともあって、Base Campには平山ユージさんやOBEさん(杉田雅俊氏の愛称)といった魅力ある方が多い印象がありましたね。当時は浸透していなかった週1回の頻度でのセットを取り入れていたことや、僕が以前アルバイトしていたジムに現店長の石渡(智也)さんが通われていた縁もあって、ここで働かせていただくことになりました」

 順調に“クライミング漬け”の日々を過ごしていたなか、「TNFCの運営としてやってみないか?」と平山氏、杉田氏から声がかかったのは、正社員となって2年目の2019年に入ったときだった。

 「まさか、あのTNFCに関われるとは」

 TNFCには、もともと選手として出場していた。

 「TNFCには一流選手も出場していますが、あのレベルの選手たちが出ているような公式大会って、ほとんどはベルトコンベア方式なんです。でもTNFCはセッション方式で、しかもアップエリアが一般参加者と一緒だったりする。他のスポーツではトップ選手を間近の距離で感じられて、競技ができる機会って少ないですよね」

 「それにすごく楽しそうなんですよ選手が。他の人の登りを見てワイワイ話していたり。たぶんセッション方式だからということもあると思います。これはボルダリングの魅力の話になりますが、他のスポーツって基本的に自分の味方しか応援しないじゃないですか。でもボルダリングは、大会でもみんなで応援し合う。みんなが仲間なんですよね。負けたくないっていう意識もあるんですけど、頑張って登っている姿を見ると自然と『ガンバ!』って声が出ちゃうんです。その一体感が、この年齢層とこの人数の規模であって、全国でこれほどまで盛り上がれる大会は、他にないんじゃないかなと思います」

 Base Campの一員となってからも選手としてTNFCに出場していた島根さんは、出場権を得た最上位カテゴリーのDivision 1に出たい気持ちもあったそうだが、平山氏、杉田氏からの思いもよらぬ誘いはとても魅力的だったという。

 「選手として出るよりも運営に関われる機会の方が少ないし、クライマーとして成長できる大きなチャンスを与えてもらったんだと思って、『ぜひやらせてください』って」

TNFCの本戦に出場することは「クライマーのステータスでもあります」と説明する島根さん。普段はBase Camp Tokyoで接客業務などをしている。

ジムでのセットと、大会でのセット。苦戦した課題づくり

 運営での役回りは、エントリーなどを扱うサイト「ONE BOULDERING」の管理や問い合わせ対応のほか、大会当日の写真撮影、ジャッジなど多岐にわたる。忙しさがある分、充実感や責任感を感じ、大きな達成感にも繋がっていると話す島根さんだが、苦戦したのは課題づくりだという。

 「僕は人よりもリーチがあるので、距離感の設定とか、リスキーさの加減とか、そのあたりの見極めがすごく難しくて」

 普段は週に1回、Base Camp Tokyoで通常営業のセットをしているが、コンペの課題づくりは勝手が違ったようだ。

 「入り口となる課題だったり、順位を左右するような勝負課題。グレードや同じカテゴリーのなかで、段階を踏まないといけないんです。だから普段やっているよりも、ムーブが被らないようにすることだったり、他のセッターさんとよりコミュニケーションを取ることが大切になります。単純に、いつも見慣れている壁、ホールドと毎回環境も違いますし」

 2020年大会では、岩橋由洋氏(クライミングジム『DOGWOOD』オーナー)、時長武史氏(クライミングジム『MABOO』オーナー)という2人の著名セッターがTNFCでは初となる外部からの定期メンバーとして各ROUNDのセットなどに参加。彼らから「吸収できるものは吸収した」と島根さんは語る。なかでも、ルートセットの腕を磨くため、単身アメリカに渡った経験のある時長氏から得たものは多かったようだ。

 「時長さんは『バランス』を意識されるんです。パッと壁を見たときに、偏りがないようにボリュームを上下に配置したり、こういうホールドの色使いをすると見栄えがいいと指摘したり。ラインセットやテープの貼り方もそうなんですが、海外のジムに近い感覚を持たれていて、それを間近で知ることができたのは、すごく自分にとってプラスになりましたね。いろいろと勉強させていただいて、普段の営業のセット時にも活かせるようになってきました」

「それが無理じゃない」と、背中で示してくれる

 初めてTNFCの舞台裏に携わり、「やっぱり運営側の方が大変」だと話す島根さん。特に驚いたというのが、杉田氏のタフネスさだ。

 「TNFCのセットの試登だけでも大変なんですけど、そのセットを2日間やって予選ROUND当日を迎え、さらには担当している『Boulder Park Base Camp』(埼玉県飯能市)や、ジャパンカップ、世界選手権といった公式大会のセットも請け負っている。その間にONE BOULDERINGの業務などもこなしていると思うと、本当に尊敬の念しかないですね」

 ただ、それは今後目指したい姿と重なるという。

 「OBEさんの背中を見ていると、やっぱりかっこいいなって。自分もそれを追いかけられているんだって思うと、嬉しいんです。コンペも、外岩も、ルートセットも、運営も。本当は何か一つに集中した方がいいかもしれないんですけど、自分は全部に興味があるので、できるところまでは頑張りたいんです」

 「それが無理じゃないんだっていうのをOBEさんが見せてくれるので、しがみついていきたいですね。OBEさんはコンペではBJCで優勝しているし、ここで働きながらでも、外岩で高難度課題を登り、様々な場所でのセットをこなし、試登の場面では常に強さを見せてくれます。僕もBJCで上位に行ってW杯に出たいですし、外岩にも行きたい。そして今以上にTNFCを魅力的な大会にしていきたいです」

TNFCへの思いも人一倍強い。「BJCのプロジェクションマッピングのように、ボルダリングコンペにはもっと可能性があると思うんです。野球やサッカーみたいに一般の方が観ても面白い大会にTNFCもしていきたいですね」

予選ROUND11・12が開催

 全国13会場をめぐる予選ROUNDもいよいよ大詰め。1月11日には『PUMP大阪』(大阪府大阪市)でROUND11、同25日には『OD小倉店』(福岡県北九州市)でROUND12が行われ、前者にはこれまでで最多の197名、後者には162名が出場した。これまで同様、本戦出場を決めた参加者の声をお届けしよう。

【ROUND 11/PUMP大阪】

ROUND 11の出場者数は2020年大会で最多の197名に上った。


U-10/1位:横道花凛
「普段は『LUCLU』(大阪府寝屋川市)というジムで登っていて、スラブが得意です。あまりコンペには出ないんですけど、TNFCには毎回出ていて、本戦にも出場しています。今年の本戦では決勝に行けるように頑張りたいです」


Women’s Division 1/1位:杉村(小畑)紗恵子
「PUMP大阪は緩傾斜(スラブ)のイメージだったので、普段は『bee mee nee WaBo』(和歌山県和歌山市)で登っているんですが、昨日の最終調整ではほとんどスラブしか触りませんでした。それが活きましたね。(本戦に向けては?)今日は久しぶりのコンペですごい緊張したので、もう少し力を抜いて登れるようにしたいです」


Division 1/1位:清水裕登
「(W杯はリードがメインだと思いますが、今回に向けた調整は?)なんとなくの調整はしてきたんですけど、なんとなくでは全然だめでした。本戦に向けて、段階を上げてモリモリ頑張ります!」

【ROUND 12/OD小倉店】

九州で唯一の予選ROUNDには162名が出場。初段以上を登れる女性によるWomen’s Division 1には、日本代表歴のある渡辺沙亜里、大河内芹香、中村真緒の3人がゲスト参加した。


Division 3/1位:通谷律
「(去年は本戦のU-12で優勝しましたが、初の大人のカテゴリーはいかがでしたか?)ちょっと距離があったけど、すべて完登できたので良かったです。TNFCは参加人数が多くて、楽しい雰囲気のイメージがあります。本戦では去年優勝できたので、今年も優勝できるように頑張ります。(将来の目標は?)ユースの大会で優勝して、いつか日本代表に選ばれたいです」


Women’s Division 1/1位:溝口萌香(写真右から2人目)
「TNFCには岐阜で決勝が行われていた小学校6年生の頃から、ほぼ毎年といっていいほど出ています。今日はゲストが3人もいたので、プレッシャーのなかで気を張りながらでしたけど、楽しく登れました。普段は働いている『AT WALL』(福岡県福岡市)で登っていますが、このROUNDまでは課題の傾向やホールドに慣れようと週1はここ(OD小倉店)に通っていました。Women’s Division 1で本戦に出られるのが3回目なんですけど、毎回テンションぶち上がりで頑張れているので、今回も頑張っていきたいです」


Division 1/1位:中上太斗
「10課題中、9課題完登できましたが、1本決めきれなかったので、順位は良くても内容には課題が残りました。僕はルートとボルダーを並行してやっていて、このROUNDに向けてボルダリングは毎回毎回1トライを大切に登るように意識してきました。九州予選を突破したので、本戦では『これぞ九州男児』という勢いのある登りを見せられたらいいですね」

リザルト詳細
(上記「ONE BOULDERING」ページ内下部にある各ROUNDを選択)
 
「TNFC2020」特集 トップページ

CREDITS

取材・文 編集部 / 協力 THE NORTH FACE CUP 2020

back to top