第1回ユースフューチャーカップが開催 小中学生クライマーとその保護者に「プロセスの大切さ」を伝える
27、28日、スポーツクライミングの「第1回ユースフューチャーカップ鉾田」が茨城県の「鉾田市生涯学習館 スポーツクライミングセンター」で行われ、小学6年生から中学2年生にあたる2008、09年生まれのユースCカテゴリーと小学4年生から6年生にあたる2010、11年生まれのユースDカテゴリーで男女合計250名近くの子どもたちが参加した。この大会は近年の競技人口増加とその低年齢化を受けてJMSCA(日本山岳・スポーツクライミング協会)が新設したもので、「競技者としての倫理・健康面の認識・知識の向上を図る」ことを目的にした事前の親子オンライン研修会の受講が参加の必須条件とされた。
27日にはボルダリング、28日にはリードが行われ、今大会は決勝を行わず1つのラウンドで順位を決定した。ボルダリングは制限時間内に好きな順番で8課題を登り、トライ数は各課題5回までと定められたコンテスト方式で行われた。ユースC男子では2009年生まれの濱田琉誠が唯一7完登に到達して優勝。同女子では全完一撃した2008年生まれの伊藤悠、ユースD男子では2010年生まれの仲田和樹、同女子では2010年生まれの長崎莉央とユースC男子以外はいずれもカテゴリー内で下の年代が頂点に立った。
2本のルートを登りその総合成績で争うリードはどのカテゴリーでも接戦が続いた。ユースC男子では先頭でAルートを登った2008年生まれの戸田稜大が高度30+の好成績を収め、Bルートでは完登して1位に輝いた。同女子では昨年のリードユース日本選手権を制した2008年生まれの小田菜摘が、ユースD男子では2位と同ポイントで並んだ2010年生まれの奥畑成がクライミングタイムの差で、同女子ではBルートを唯一完登した2011年生まれの西美柚奈が優勝を果たした。
大会終了後の記者会見で安井博志日本代表ヘッドコーチが「子どもたちが成長期を迎える中で、クライミングはその影響を受けやすい競技。そこを乗り越えて、長くクライミングが続けられるような研修をしようということで今回参加する全選手とその保護者に講義を受けていただいた。未来に向けた大きな一歩が踏めたのではないかと思います」と大会を振り返ると、村岡正己大会実行委員長は「この大会の目的は勝負というよりもこのスポーツ自体を楽しんでもらうこと。これまで選手強化のための大会をしてきましたが、今後は普及という部分にも力を入れていきたい。コロナ禍で十分な運営ができませんでしたが、来年はさらに充実した大会にできれば」と総括した。
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競技の活発化によりユースの下のカテゴリーで“勝利至上主義”の考えが少しずつ高まっているという懸念から「結果だけでなくプロセスも大切にしてほしい」と話すのは西谷善子ユース日本代表ヘッドコーチ。事前研修会では「ユース世代に起こりやすい障害」「成長期のトレーニング」「女性アスリートの諸問題」「アンチ・ドーピング」の4つのテーマに分かれて専門知識を持つ講師が講義を担当したが、各講師が共通して伝えたキーワードが先の一言だという。「競技をやるからには、上を目指すのは当たり前のことです。だけど結果だけを求めるのか、それともプロセスも合わせて見るのかで全然違ってくる。無理な目標設定をして『何で勝てないの?』となるのと、『今はこのくらいまで登れるようになったから、この大会はこの順位なら目指せるね』といったように実力に見合った目標を子どもと相談して設定し、『このポイントまでは到達できたね』『このプロセスはすごく良かったね』というような振り返りができる関係のほうが、子どもたちはその後の競技人生を長く続けられるはずです」と西谷氏は説明する。
大会会場では「登れた点を評価して『ここが良かったね』というやりとりをしていた親子が何組かいた」といい、すでに子どもたちに対しての接し方が良い場面を見ることができ安心したという。西谷コーチは「引き続きそのようにお子さんと接していただきながら、またお子さんと一緒に考えていきながらパフォーマンスアップしていくことを願っています」と保護者へのメッセージを残した。
また、研修会後の参加者アンケートでも「子どもたちの発育発達の問題に対して理解が深まった」「辛抱強く接していかないといけないことがわかった」などというポジティブな声や今後の要望が届いたことから研修会を実施したことに一定の手ごたえを感じているといい、西谷コーチは「みなさんの興味がある点については次回に生かしていきたい」としている。
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CREDITS
取材・文 編集部 / 写真 窪田亮