BJC王者2人の意識。“対人競技ではない”クライミング
先月末の1月30日・31日に行われた第16回ボルダリングジャパンカップ(BJC)。決勝終了後の囲み取材では、優勝した藤井快と森秋彩が同様の言葉を口にしていた。大会に挑むトップクライマーの“意識”を窺い知ることができる、2人のコメントを紹介したい。
男子最多4度目の頂点に輝いた28歳の藤井は、この大会に臨む上での心境を問われると、「今年の初戦であり、プロ転向一発目の試合でもあったので、『何が何でも』という気持ちもあったが、この競技は“人と競うような種目ではない”ので、『自分にフォーカスしてどれだけのパフォーマンスを発揮できるか』ということを今年の一つの目標にしていた」とし、勝利の要因の一つとして「それが上手くハマった感じです」と答えた。
「他人がたとえどんなに難しいコースを登っても、どんなに簡単なコースを登っても、自分に反映する要素は一つもない」。そう断言した藤井は、最終第4課題で完登し優勝を決めた瞬間を「自分がこの課題を登れてよかった、決勝前に掲げていた目標の全完登を達成できてよかった、という嬉しさがありました」と振り返っている。
「クライミングは対人競技ではない」。同じコメントを、初のボルダリング女王に輝いた森も残している。17歳でありながら、これまで数々の大会で表彰台の中央に立ち、2019年の世界選手権では同選手権における日本人最年少でのメダル獲得(リード種目=銅)を経験した森だが、結果を残すにつれてプレッシャーも大きくなっていったという。
「小さい頃は楽しくて大会に出ているという感じだったけど、だんだん成績を重ねて注目されるようになると、プレッシャーがどんどん大きくなって、クライミングの楽しさを忘れてしまった時期があった。それ取り戻したいと思って、今は『楽しむ』ことを目標にしています」
「楽しむ」ために意識しているのが、クライミングは「『人対自分』じゃなくて、『コース対自分』」だということ。現在は「クライミングを始めた頃の初心のような気持ちで、大会に臨もうとしています」と話した。
東京五輪の追加競技に選ばれたスポーツクライミングは、登る手段としてシューズ以外の道具に頼らず、自然の岩場と対峙する「フリークライミング」に競技性が加わったものだ。だが、他人と競う要素が強くなったとしても、“対人”ではなく“対壁”というメンタリティで、彼らトップクライマーは戦っている。
CREDITS
取材・文 編集部 / 写真 窪田亮