OnlineObservation Selection Vol.5「ボルダリングW杯2018 八王子大会決勝 男子最終課題」

 壁を3Dスキャンすることで、WEB上での課題閲覧を可能にした「OnlineObservation(オンライン・オブザベーション)」。OnlineObservationとのコラボレーションでお届けする本連載では、膨大なアーカイブの中から厳選した魅力的な課題を紹介していく。このサービスを体感していただくことはもちろん、課題に込められたセッターの思いなども感じてもらいたい。

OnlineObservationって何だ?開発者インタビュー

 今回ピックアップするのは、2018年のボルダリングW杯第5戦、八王子大会での男子最終課題。楢崎智亜が初手でのゾーン取りを見せて一撃し、奇跡的な逆転優勝を掴みかけたのもつかの間、30歳のガブリエーレ・モローニ(イタリア)も同じく一撃して初優勝を成し遂げた大会のハイライトとなる印象的な課題だ。国際スポーツクライミング連盟によるYouTube中継などでは、OnlineObservationを用いて課題紹介が行われ、話題を呼んだことも記憶に新しい。本記事では、八王子大会を語るには欠かせないこの大きな扇型のハリボテ(※1)を中心に話を進めていきたい。

 まずは課題のオブザベーションから。この課題は2つのハリボテの間に距離があることや、巨大なホールドに目を奪われ、直感的なオブザベをしにくい見た目をしている点が特徴に挙げられる。世界トップレベルのクライマーたちに突きつけられたこの課題を、あなたは十分にオブザベすることができるか?

※1 壁から出っ張っている大振りなホールド。海外ではボリュームと呼ばれることが多い。

 

Vol.5「ボルダリングW杯2018 八王子大会決勝 男子最終課題」

大会名:ボルダリングW杯2018 八王子大会
セッター:平嶋元、ほか八王子大会セッター陣
使用ホールド:Voltomicほか

<3Dスキャン>

©︎IFSC

 
 この扇形の巨大ハリボテは、ドイツ一のシェアを誇る木製ハリボテ専門ブランド『Voltomic』によるもの。名称は『Bigmic 90』で、強烈なインパクトから多くの人の興味を惹きつけてきた。『Voltomic』日本正規代理店である有限会社セブンエーで同ブランドを担当する白木真由美さんもその一人だ。

 「壁の形状を変えられるくらいの大きなボテで、そのインパクトから元々気になっていたので取り扱いを決めました。入荷が八王子大会の直前だったこともあり、使ってもらえたらいいなくらいの気持ちでセッターの方々へ提供させていただきました」。大会で使用されるホールドは協賛社から提供されるケースが多い。ハリボテ1つとっても数万円はすることを考慮すると、協賛社なくしてコンペは成り立たないといっても過言ではないだろう。しかし、どのホールドを用いるか判断するのはセッターであり、必ずしも提供したホールドが使用されるとは限らない。

 大会でセッターを務めた平嶋元氏は、Bigmic 90について「以前からその存在は知っていて、取り付けるのが大変そうだなと(笑)。セット前に会場にずらっとホールドが並ぶんですけど、たまたま初めの方に出てきたのがこのホリボテで目につきました。実際に見たらここまでかというインパクトがあり、(最終課題となった)壁の形状にも合っていましたし、使いこなしてみたいなという興味もあったので使用させていただくことにしました」と話す。

 男子最終課題(M4)については「そもそも大会のコンセプトとして、最近は完登数が多い中で勝敗が決まることが多かったので、今大会は『登れた人が勝つ』という、ギリギリをついた上で勝負が決まることを考えていました。M4については近年動き主体の課題が流行ったのですが、それに昔からの “純粋に登っていく” 動きを取り入れることを意識しました。後半部分にはキャンパ(※2)など泥臭い動きも入れています。新しさに昔ながらをMIXさせたような課題ですね」とその意図を明かしてくれた。

※2 足を使わずに登ること。

 前出の白木さんは、決勝の課題を見て採用されたことを知ると「実際に壁に付くのは日本では初めてなので、どういう風に使われるんだろう?ってワクワクしました。採用していただきとても光栄に思いました」と嬉しさをかみしめる。大会終了後には「ジムスタッフの方などが買い付けにいらっしゃるんですけど、『あれで本当に一つの大きさなの?』とか、みなさんザワザワしていました(笑)」とその反響も大きかったようだ。

 大会での役目を終えた2つの “シンボル” は、現在とある地方のジムへと渡っている。滋賀県大津市にある「ロックメイト大津店」は、延べ床面積964㎡を誇り、キッズパークや琵琶湖を一望できるカフェスペースも備える関西最大級のボルダリングジムだ。店長を務める福本洋一郎氏は、「八王子W杯はとても印象的で、ドラマチックな大会でした。そして、Bigmic 90はその大会を象徴するモノだったと思います。これはみんな登ってみたいだろうなと感じ、店内のハリボテはグレーで統一しているんですが、それを覆してでも取り入れたいと思いました」と導入に至った想いを明かしてくれた。

 

ロックメイト大津店に取り付けられたBigmic 90。壁の一部と見間違うほどのインパクトがある。

 Bigmic 90を使用した課題は、国際ルートセッターであり山形県のジム「Flat Bouldering」オーナーでもある平松幸祐氏がセットした。「平松さんにはジムに入って真っ先に目に入る壁に目立つものを作ってほしいとリクエストしていて、ちょうどBigmic 90が届いた時期とも重なったので、それしかないでしょうと。(実際に取り付けられたときの印象は?)まず笑ってしまいましたね(笑)。どこからどこまでが壁で、どこからどこまでがホールドなの?って。同時に、どのレベルの人でも触ってみたいだろうなと確信しましたし、触ってほしいと改めて思いました」

 福本氏はその巨大ハリボテに、自身の手でアレンジを施している。「少しでも楢崎智亜選手の気分が味わえるようにと、ダイノ(※3)ができる課題を一つ私の方で加えています。ここを訪れる方々には、強くなってほしいというより、笑って帰ってほしいと考えています。W杯の興奮がさめやらぬうちに、ぜひ大津まで遊びに来てください!」。Bigmic 90を用いた課題は、少なくとも9月25日までは同店舗に残るとのことだ。

 セブンエーの白木さんが「大会で使用された、プロが触ったものを一般の人が実際に触ることができるというのはクライミングの良い所ですよね」と話したように、この巨大な扇型の2つのハリボテには、クライミングの魅力がたくさん詰まっている。

※3 壁内でジャンプしホールドを取りに行くダイナミックなムーブの一つ。

 
<ムーブ動画>

©︎IFSC

 

OnlineObservation(オンライン・オブザベーション)

3D化された課題の写真や動画をPC・スマホで自由に“オブザベ”でき、かつ今までになかったライブラリとして誰でも共有、自由に投稿も可能な新時代のサービス。クライマーが閲覧することはもちろん、ルートセッターの課題ライブラリとして、クライミングジムのPR効果を狙ったメディアとしても活用されている。
OnlineObservation 公式サイト

セブンエー公式オンラインショップ
ロックメイト大津店 公式サイト

CREDITS

取材・構成・文 編集部・OnlineObservation

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