野口啓代、自国開催で涙の優勝。男子は最後にドラマが/ボルダリングW杯2018第5戦 八王子大会

 3日午後、ボルダリングW杯2018第5戦八王子大会の決勝が行われ、女子は野口啓代が昨年果たせなかった日本勢の自国開催での優勝を決め、男子はイタリアのベテラン、ガブリエーレ・モローニがW杯初制覇を果たした。

 女子決勝、優勝の争いはやはり野口、野中の一騎打ちとなった。途中、第2課題ではエネルギーをくれと言わんばかりに両手を振り上げて観客を煽り、その勢いのまま完登するなど準決勝の全完一撃の勢いが続く野口が、トライ数の差で野中を1歩リードした状態で最終課題を迎える。すると先に登る野中が会心のパフォーマンスで一撃し、野口にプレッシャーをかける。2トライ以内に完登すれば優勝というしびれる場面となった野口は、会場全体が息を呑んで見守るなか、序盤の緩傾斜の難所をスムーズに切り抜けると、そのまま一気にTOPへ駆け上がり完登。本大会9つ目となる一撃で、見事女王の座を射止めた。直後に行われたフラワーセレモニーで見せた涙も印象的だった。野中は4戦連続となる2位。エカテリーナ・キプリーアノワ(ロシア)が3位となった。自身初のW杯決勝に進んだ伊藤ふたばは、完登こそなかったものの、最後まで諦めない姿に会場から惜しみない拍手が送られ、今後の活躍に期待を持たせている。

 続く男子では、高難度課題がファイナリストたちに立ちはだかる。完登数の少ない締まった展開が続き、抜け出す者が現れないまま最終課題に突入。この時点で優勝の可能性があったのは原田海を除く5選手で、ここまで完登0の楢崎智亜にも僅かながら逆転の可能性が残されていた。それは、前を登る杉本怜、チョン・ジョンウォン(韓国)が完登せず、アレクセイ・ルブツォフ(ロシア)が2トライ以上での完登にとどまり、さらにそのうえで自身は一撃で仕留めるという奇跡に近いシナリオだ。しかし、不可能かと思われたミッションはその条件通りに進んでいき、千載一遇のチャンスが巡ってくる。楢崎は勢いよくスタートから飛び出すと、ゾーンを捉えて離さない。そのまま最後の力を振り絞り、見事一撃を完成させると、ざわめきにも似た歓声が会場を駆け巡る。悲願の優勝を手中に収めたかと思われた直後、最後にドラマが待っていた。最終競技者のモローニは、楢崎と同じく1トライ目でゾーンを捉え、大歓声のなかそのまま完登。逆転に次ぐ逆転で、30歳のベテランが初のW杯優勝を決めた。3位には杉本が入り、今季初の表彰台に立った。

 会場には昨年を上回る2,500名が駆け付け、トップクライマーたちの素晴らしい登りに多くの観客が魅了された今大会。シーズンも残すところあと2戦。年間王者争いも大詰めとなり、ますますW杯から目が離せない。

 

野口啓代コメント
「昨年の八王子で2位だったので、この一年間、本当に日本で優勝したいという思いでW杯の前半戦を頑張ってきました。パワフルな2課題目、2トライ目ですごく疲れてしまって、観客の皆さんのパワーをもらわないと登れないなと思いました。大きな歓声をもらったおかげで登れたと思います。最終課題は1トライ目で決めたいと思っていたので、登れたときは信じられなくて本当に嬉しかったです。2020年に向けて自国開催で優勝する経験を積みたくて、こうしたプレッシャーのなかでいかに自分の力を発揮できるかを試す大会でもあったので、結果が出せて良かったです」

 

野中生萌コメント
「最終課題で一撃できたことは私にとってすごく大きなことでした。同じようなテンポで啓代ちゃんと競っているなかで、プレッシャーを与えることができました。ただ、やっぱり最後に登り切った彼女は流石だなと思います。国内開催ということで、応援してもらっているのはすごく伝わりました。観客のみなさんの登って欲しいという思いがひしひしと伝わってきて、力になりました」

 

伊藤ふたばコメント
「決勝は距離も遠くなり、全然対応できませんでした。でも、決勝に残れたのはかなり大きいし、よい経験になったと思います。W杯ではまだ自分らしい登りを出せていないので、今後は出せるようにしていきたい。次のベイル大会は欠場するので、ミュンヘンが今季最後のボルダリングW杯になります。ミュンヘン大会にはヨーロッパの強い選手がたくさん出場してくるので、そこで準決勝、決勝に進めたらいいなと思います」

最終課題まで日本勢2人に食らいつき、3位に入ったエカテリーナ・キプリーアノワ(ロシア)

 

ガブリエーレ・モローニ コメント
「キャリアの中でベストの日になった。年齢も重ねたので、シーズンの初めには引退も考えていたが、この優勝で新たなモチベーションを持つことができました。(最終課題の心境は?)アイソレーションにいる時に、楢崎が一撃したことは観衆の盛り上がりで分かっていた。なので、自分自身のベストを出せるように特別なモチベーションをもって、100%以上の力、パッションで挑んだ結果、最初のジャンプを決めることができて自分でも驚きました。日本のみなさん、とても大きな歓声をありがとうございました」

 

楢崎智亜コメント
「優勝を目指してずっとやってきたんですけど、また2位で終わってしまった。やっぱり優勝したいし、みんなの期待に応えたいという思いがありました。内容的には追い込まれた状況で一撃できたので良かったなと思います。去年は1~3課題目までずっと1位で、今回は1つも登れずに5位からだったので、ベストは尽くせたかなと思います。最後は裏で待っているとみんな初手を失敗しているように感じて、これは一か八か上に飛んでしまえと思って攻めれました。ガブリエルには初手をあんなに綺麗に決められてしまい完敗です」

 

杉本怜コメント
「もう疲労困憊で全身バキバキです。最後まで諦めずにいたので、ギリギリ表彰台に食らいつけたので良かったです。(完登した)3課題目は、ゴール取りの左足のホールドがすごく乗りづらくて。最終トライでは『絶対に滑るな』と信じて右足を上げたら体勢が良くなったので、思い切ってゴールに飛びつきました」

最終課題では観客を煽るなど、今季初のW杯決勝で「らしさ」をみせた原田海

 

<女子決勝>

1位:野口 啓代(29)/3t3z 5 5
2位:野中 生萌(21)/3t3z 6 6
3位:エカテリーナ・キプリーアノワ(21/ロシア)/2t2z 6 5
4位:スターシャ・ゲヨ(20/セルビア)/0t2z 0 5
5位:アルマ・ベストファーター(20/ドイツ)/0t2z 0 6
6位:伊藤 ふたば(16)/0t1z 0 9

<男子決勝>

1位:ガブリエーレ・モローニ(30/イタリア)/2t4z 3 6
2位:楢崎 智亜(21)/1t3z 1 6
3位:杉本 怜(26)/1t3z 4 8
4位:チョン・ジョンウォン(22/韓国)/1t2z 2 6
5位:アレクセイ・ルブツォフ(29/ロシア)/0t2z 0 4
6位:原田 海(19)/0t1z 0 8

※左から氏名、年齢(大会初日時点)、所属国、成績
※成績は左から完登数、ゾーン獲得数、完登に要した合計アテンプト数、ゾーン獲得に要した合計アテンプト数

 
リザルト詳細は国際スポーツクライミング連盟/大会ページから

CREDITS

取材・文 編集部・篠幸彦 / 写真 窪田亮

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