小林由佳、競技大会の第一線より退く

 3月4、5日に行われたスポーツクライミング日本選手権リード競技大会。日本のクライミング界を長らくけん引してきた一人の女性クライマーが自身の競技人生に一区切りをつけた。

 小林由佳、1987年12月29日生まれ。小学2年生からクライミングを始め、13歳で当時の国内最高峰ジャパンツアー第1戦で史上最年少優勝を果たすと、その後も勝ち続け4年間18戦無敗という快挙を成し遂げる。オープン参加が可能となった16歳で参戦した初の国際大会、W杯シャモニー大会で決勝に進出。以降、世界を舞台に12年間走り続けてきた。その出場大会は100戦を超える。

 ここでは語り切れないほどの実績を持つ彼女だが、必ずしも順調な選手生活ではなかったという。「すごい波がありました。W杯で決勝に進めたと思ったら、予選落ちが続いた年があったり。ただ、その時々で頑張ってこられたので悔いはないです」。

 最後となった今大会は「決勝は準決勝の疲労があってベストの登りができませんでしたが、総合的に見れば想像していたよりも良い成績だったので満足しています」と振り返った小林。現在のクライミング界については「小中学生のとき周りは30歳以上の大人がほとんどで、子どもは自分だけ。最近はユース世代の層が厚く、20代後半になると頑張っているねと言われます(笑)。当時からは想像できないですね」と語ってくれた。

 29歳での決断。「成績が落ちてきたときにあと2年と決めて、その期限が来るまで頑張ろうと」。そして最後の2016年シーズンはリードW杯年間6位に。「元々考えていた時期までカウントダウンをしてやってきた。その時が来たので、一つ区切りをつけただけです」とどこか清々しく話してくれた。

 周囲からはまだ第一線で戦えるのに何で辞めるの?とよく言われたという。2歳後輩で同じ茨城県出身、国体やW杯などを共に戦ってきた野口啓代も「国際試合で一緒に登れると安心するというか、落ち着く存在でした。すごく寂しいなという気持ちが大きいです」と残念がった。

 今後は自然の岩場で登ったり、後輩の指導にあたっていく予定だ。「10年以上ハードなトレーニングを続けてきたので、とにかく解放されたい。代表の強化に携わったり、訪れたことのないスペインの南やギリシャ、アメリカの岩場を巡りたいとも思いますね」。

 その表情に迷いはなく、晴れ晴れとしていた。決してこれは「引退」ではない。彼女のクライミング人生はまだまだ続いていく。

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取材・文・写真 編集部

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