FEATURE 97

BJC2021 前回王者インタビュー【女子】

伊藤ふたば パリへのリスタート

くよくよなんかしてられない

東京五輪への道は潰えた。しかし18歳の女王はすでに前を向いている。辛い時期を支えてくれた人たちのためにも、恩返しのボルダリングジャパンカップ(BJC)連覇を狙う。

※本記事は「第16回ボルダリングジャパンカップ」(2021年1月30日~31日開催)大会公式プログラムの掲載インタビューに未収録分を追加したものです(このインタビューは2021年1月14日にオンラインで収録されました)。
 
 

1年前の大会後には、初優勝した2017年と比べて『実力で優勝できた』とコメントされていました。あらためてどこに成長を感じましたか?

「最終4課題目の『完登すれば優勝』というシチュエーションで狙い通りに完登して優勝できたのは、メンタル面や、登れる課題をしっかり登り切る力がついたからだと感じています」

メンタルもフィジカルも成長できた。

「2017年の時はまだ中学生で、本当にガリガリだったんですけど、上半身も下半身も筋肉がついてうまく体を作ることができました」

決勝は第1課題を一撃スタート。しかし他3人が完登した第2課題を伊藤選手は登れませんでした。

「第1課題は緊張で動きも硬くて、よく一撃できたなって思うくらいの登り方でした。私は競技順が最後で、2課題目も他の選手が完登したのをわかっている状態だったので、さらに緊張していたのを覚えています。実際に登れなかったので焦りましたね」

 

続く第3課題をただ一人登れたことによって優勝に大きく近づきました。まずこの課題を見た時の印象は?

「最初の1手目をスタティックにゆっくりと行くのか、勢いで行くのか。微妙なところだったんですけど、スラブ系(緩傾斜壁の課題)が自分は得意なので、やっているうちに感覚が掴めてくるのかなって考えていました」

 

 

他の選手はその1手目で大苦戦していましたが、伊藤選手は勢いよく、さらに最初から1手目の先を狙っていましたよね。どの時点からそのイメージがあったのでしょうか?

「何個か頭の中でイメージしていたムーブがあったのですが、スタート位置についた時に奥まで行けそうだなと思って、そのまま勢いよく行った感じです。ここ以降はそこまで難しくはなかったんですけど、リスキーな動きが多かったです。他の選手が登れていなかったので『絶対に登らなきゃ』という焦りはありましたが、どこかで冷静さもあって、『丁寧に行こう』と」

 

冒頭にも話がありましたが、最終課題は直前の野口啓代選手が完登し、登り切らなければ優勝を逃すという状況で競技順が回ってきました。

「ここでもすごくプレッシャーがあったんですけど、でも目の前の課題を登り切ることに集中していましたね。『優勝しなきゃ』というよりは、『この課題を楽しもう』という方向に気持ちを向けていました」

 

今大会、前回女王のプレッシャーはありますか?

「そこまではまだ感じていません」

楽しみという感じ?

「楽しみなのもありますし、久々のボルダリングの大会ということもあって緊張します」

今の仕上がり具合はいかがでしょうか?(このインタビューは1月14日にオンラインで収録)

「悪くないとは思うんですけど、大会に出ていないと今の自分の調子がわかりづらいですよね。練習で調子が良くても、大会で実力が出せるかはまた別だったりするので。調子が上がっていたとしても、コンペでしっかり登れるかな、少ないトライ数で登れるかな、緊張してできなくなっちゃいそうだなって不安になっちゃいますね(笑)」

今大会の目標は?

「もちろん優勝したいです。2連覇を目指します」

 

コロナ禍だった2020年、「ここが成長した」というご自身の注目ポイントがあれば教えてください。

「去年は海外の大会がなかった分、自分と向き合う時間やトレーニングできる時間があったので、フィジカルな動きなどは自分の中で上がってきたと感じています。そういう部分をみなさんにお見せできたらと思いますし、会場に来られなくても(今大会は無観客開催)、配信で観て応援していただけたらすごく嬉しいですね」

昨年12月に五輪代表の選考問題が決着し、伊藤選手には難しい時期もあったと思いますが、今日の受け答えを見ていると気持ちはすでに切り替えられているように感じます。

「CAS(スポーツ仲裁裁判所)の裁定が出た時は、落ち込んで練習にも身が入らないような感じだったんですけど……。『これからもずっと応援しているよ』というメッセージとか、一緒に悔しがったり泣いてくれる人たちがたくさんいて、自分は本当に周りの人に応援してもらってるんだな、支えられているんだなって実感して、感謝の気持ちでいっぱいになりました。結果を出した時に『おめでとう』って言ってくれる以上に、そういう言葉をかけてくれることが本当に嬉しくて。そういう人たちがいるからこそ『いつまでもくよくよなんかしてられないな』と思って、今は2024年のパリ五輪に向けてトレーニングを始めています」

2021年はどんな年にしたいですか? 気持ちを新たにチャレンジしていく「始まりの年」というイメージでしょうか。

「そうですね。パリに向けたスタートの年だなっていう気持ちはすごくあります。気持ちを切り替えて、さらに強くなっていきたいです。まずはコロナ禍が収まって、また国際大会などに出場できるようになればいいですし、去年作り上げてきたものが世界でどこまで通用するのか早く見てみたいです。今後がどうなるのかまったくわからないので難しいですけど、大会があったとしてもなかったとしても、強くなり続けたいです」

 
「第16回ボルダリングジャパンカップ」大会特設サイト

CREDITS

インタビュー・文 編集部 / 写真 窪田亮 / 協力 JMSCA

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PROFILE

伊藤ふたば (いとう・ふたば)

2002年4月25日生まれ、岩手県盛岡市出身。TEAM au所属。14歳だった2017年にボルダリングジャパンカップを史上最年少で制し、一躍脚光を浴びる。以降、18年のアジア選手権や19年のIFSC複合予選会で優勝するなど活躍を続け、20年はボルダリング、スピードのジャパンカップで国内2冠を達成した。21年春に高校を卒業し、プロクライマーとしての活動を開始する。

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