FEATURE 95
スポーツクライミング日本代表・杉本怜が語る。選手のため、ファンのためのTOT開催とチャリティ活動
日本代表として、私たちができること
コロナ禍の2020年、クライミング界で注目を集めたのが、日本代表選手のみで争われる特別大会「Top of the Top 2020」と、日本代表選手によるチャリティ活動「Climb for Tomorrow 2020」だ。その中心を担った1人、JMSCA(日本山岳・スポーツクライミング協会)アスリート委員長である杉本怜に、2つのアクションを起こした目的や活動への想いを聞いた。
※本記事の内容は2020年12月発行「JMSCA magazine 004」掲載インタビューから一部抜粋したものです。
コロナ禍におけるTOT開催の意味
「国内の大会を盛り上げるチャンス」
日本代表選手のみが出場する特別大会「Top of the Top 2020 ―2020年スポーツクライミング日本代表の頂上決戦―」(以下TOT)が10月31日~11月1日に愛媛県西条市で開催されました。まずは出場した感想から聞かせてください。
「僕も他の選手と同じで、大きな形式の大会に出場するのが久しぶりでした。出場してみて、大会の感覚を忘れていたことを痛感したというか。『あ、これはアスリートとしていかんな』と認識できた大会でした」
2020年は新型コロナウイルスの影響で開催される大会が少なくなってしまいましたが、その中でTOTが行われた意味は大きかったのではないでしょうか?
「この大会にどのようなモチベーションで臨んでいいのか悩んでいる選手も多かったと思います。でも出場してみると、やっぱり本当にコンペって楽しいなとか、大会に向けてトレーニングすることは大切なんだと感じて。当たり前のことなんですが、それすらも時間が空くと、頭ではわかっていても感覚的にわからなくなってしまう部分がある。僕以外の選手もそう思ったはずですし、こういった大会が開催できて良かったですね」
TOTは、杉本選手が委員長を務めるJMSCAアスリート委員会が主管メンバーの一員となりました。あらためてアスリート委員会の活動について説明してもらえますか?
「バラバラになっている選手たちの声を集約して、協会とうまくコミュニケーションを取りながら、より良いアスリートの活動環境を作っていこうというのが主な目的です。僕と副委員長の藤井快選手の他、樋口純裕選手、野口啓代選手、野中生萌選手の5人で運営しています。このコロナ禍では、6月に『スポーツクライミング選手のための活動再開ガイドライン』がJMSCAから出されたのですが、そのガイダンス作りに参画したりもしました」
日本代表なりのチャリティ活動
「社会に還元していくことも大事」
日本代表によるチャリティ活動についても聞かせてください。10月に「Climb for Tomorrow 2020」というプロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」で集めた支援金をWHOの新型コロナウイルスへの対応を支援する民間基金「新型コロナウイルス感染症連帯対応基金」に寄付する活動を実施されました。
「今回のTOTは、アスリートの活動の場を設け、その姿をみなさんに見せて楽しんでもらうことが主目的だったのですが、僕らアスリートは競技を見せて人々を楽しませるだけでなく、それを社会に還元していくことも大事だと考えていました。選手自身も大変な状況ではありましたけれど、まだまだコロナ禍が収まっているわけではないこの状況下で、感染拡大防止に尽力していただいている方々を支援できる方法はないかと思い、このような形でチャリティを始めることになったんです」
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この活動も、アスリート委員会での話し合いの上で実施されたのでしょうか?
「そうですね。『すごくいい活動だよね』とみんな言ってくれて、そのまま満場一致で決まりました。時間がない中でたくさんの人に助けてもらい、実施にこぎ着けることができました。目標金額も設定しましたが、本当に大事なのは一人一人の想い。日本代表が呼びかけることで、ファンのみなさんが様々な取り組みを考えるきっかけになってくれたらいいなと思います」
チャリティ活動を継続していく考えはありますか?
「今回は新型コロナウイルスに関する支援という内容でしたけれど、例えばクライマーのためになるものですとか、2021年以降も模索して継続していきたいですね。僕らは競技としてクライミングをやっていますが、もともとは山登りだったり岩登りだったり、自然をフィールドにしたスポーツです。ですから環境保全活動を支援することも大事だと思っています。僕らもただずっと登るだけじゃなくて、一緒に自然環境を守っていきたい。そうしていかないと、僕らの未来のフィールドはなくなってしまいます」
来年以降は自然環境保全などに支援活動の幅を広げていく可能性があるということですね。
「僕はそのほうがしっくりくる感じがします。僕たち日本代表なりの、自分らしさを出せるようなチャリティがしたいと思っています。環境保全活動であったり、動物保護であったり、可能性はいろいろとあるのではないでしょうか。僕らの目的、気持ちがやっぱり大事で、『支援したい』という強い想いを持ってやりたいですし、そこも選手みんなで話し合って決めていきたいですね」
支援はクラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」で、2020年12月29日17時まで受け付けている。
https://www.makuake.com/project/cft2020/
CREDITS
取材・文 編集部 /
写真 窪田亮
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PROFILE
杉本怜 (すぎもと・れい)
1991年11月13日、北海道生まれ。高校時代からボルダリングW杯に参戦し、13年のミュンヘン大会で初優勝。15年にはボルダリングジャパンカップを制した。怪我に苦しんだ時期もあったが、18年にはW杯で5年ぶりの戴冠を果たし、年間初の表彰台となる3位に。現在はJMSCAアスリート委員会の委員長として選手の声をまとめる他、コロナ禍においてはオンライントークショーや大会企画など率先して行動。ベテランの域に達した今も最前線で活躍している。