FEATURE 76

裏方プロフェッショナル #014

松島暁人(IFSC国際ジュニアルートセッター)

「毎回違う」。だからルートセットは面白い

これが私のクライミング道。舞台裏で“壁”と向き合うプロに迫ったインタビュー連載。第14回は、ボルダリングW杯準優勝などの実績を持つ元日本代表選手で、昨年12月に国内6人目となるルートセットの国際資格を取得した松島氏に、セッターの醍醐味を聞いた。

日本代表として国内外で活躍されていた松島さんですが、この道を目指すきっかけは?

「大会の賞金だけでは食べていけなかったので、選手をやりながらセットもしていました。ジムがたくさんでき始めると仕事が増えてきて、徐々に比重を置いていき、選手引退後にセッターになるのは自然な流れでした。W杯に出ていた経験や能力を生かせる仕事ですしね」

セットの楽しさを教えてください。

「毎回違うことをやるのが楽しいですね。どこのジムでも壁やホールドが違う。グレードは同じでも内容は異なる。コンペではいろんなセッターと関わることで発見がありますし、自分たちで作った課題で選手の順位が付く、大会を作り上げるという点でやりがいを感じます。チームで1本のルートを作るリードも面白いです」

昨年にはIFSC(国際スポーツクライミング連盟)主催大会のチーフセッターを務めるのに必要な国際資格を取得されましたが、目指そうと思った理由、経緯は?

「海外の壁、大会でルートセットをしたいと思ったことがきっかけです。W杯に出場していたことが大きいですね。この舞台でセットできたら楽しいだろうなって。僕の場合はJMSCAと国際セッターから推薦をもらった上で、IFSCルートセッター委員会内の投票で決まりました。去年(2019年)の12月に『クリスマスプレゼントだ』みたいな感じで合格の知らせが来て。それまで数多くの大会に携わった実績が認められたことでもあるので、めちゃくちゃ嬉しかったですね。資格取得後の1年は『ジュニアセッター』という立場になり、その間はチーフはできません」

大会とジム、セットの難しさに違いは?

「大会は大なり小なり、順位を出さないといけないので大変です。1課題にかける時間も違いますし、試登もたくさんします。幅広い年代が訪れるジムでは、お客さんが楽しめる課題作りを心がけていますが、『距離感』の設定が難しい。特に女性やお子さんの多いジムはそうですね」

セッターが理想とする大会の完登数は?

「ボルダリングは決勝に限れば、1位が4完登、2位が3完登など差がはっきり分かれるのが理想で、リード決勝では最後の選手だけが完登して締めくくれたら印象はいいですよね。大会ではいつもそれを念頭にセットしています。セッターと観客で見方が違うなと感じているのが全体的な完登数で、普段クライミングをしないような方には『完登が出ない課題』というのはあまりない方がいいみたいなんです。でも僕らセッターは逆で、もちろん完登は出た方がいいんですけど、そこまで多くない方がいいと考えています。ボルダリングの自分の担当課題で、完登者が出ないと悲しくなる反面、完登者がたくさん出てもそれもまた悲しいんです」

そのあたりを突き詰めるためにも、セットする上で大事にしていることはありますか?

「もちろん突き詰めたいんですけど、時間も限られていますし、最後でどこかは妥協しなきゃいけない。大事にしているのは、大会ではやはり『公平性』です。この選手を勝たせたいとか、登らせたくないとかは絶対にないので」

国際大会でも数多くセットされてきたと思いますが、海外と日本のセッターに違いは?

「彼らは見た目にこだわりますね。特にフランス人。それと課題制作が速い。あまり高難度課題を登れないセッターもいるんですけど、あとで登れるセッターが試登すると『ちょうどいい』と思うくらい、いい感じに仕上げてくる。蓋を開けたら、うまくいってるというか(笑)。その辺は経験から来るものもあると思います」

では、日本人セッターの特徴というと?

「内容や整合性にこだわるので、きっちり順位を分けられる点は優れているのではないかと。日本の選手は世界一層が厚いと思うんですけど、その選考大会のセットを僕たちはやらせてもらっているので、セッターも世界でかなり上位に入るくらい層が厚いですし、レベルも高いと思います。ボルダリングでもリードでも」

今後の目標を教えてください。

「最終的には、選手や観客が満足できる課題と、きっちり順位がつく結果の提供をどの大会でもできるようになれたらいいですね。ただ僕は結果が良くても、あまり自分に満足したくないんです。満足するとそこで成長が止まってしまう気がして。100%の成功より反省点があったほうが、それを次に生かして失敗も少なくなっていく。でも、数を重ねても作る課題や壁は毎回違う。だからルートセットは面白いんです」

CREDITS

インタビュー・文・写真 編集部

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