FEATURE 72

インタビュー

双眼鏡で、クライミングをもっと楽しく 連載 第2回:平山ユージ

双眼鏡を覗くと、インスピレーションが湧くんです

双眼鏡で拡がるクライミングの魅力を伝えるインタビュー連載。前号に続く第2回はレジェンド、平山ユージ氏が登場。埼玉・秩父にあるクライミングの名所、二子山に向かった平山氏に同行し、競技者、観戦者にとって、そして岩場においての双眼鏡の利点を聞いた。

※本記事の内容は2020年3月発行『CLIMBERS #015』掲載当時のものです(インタビュー収録日:2020年2月12日)。
 
 
ここ二子山はよく訪れるのですか?
「自宅からも遠くないので、昔からよく通っています。朝来て、気づいたら日が暮れて真っ暗になっていることもあります。自然は心が洗われるというか、落ち着ける場所なんですよね」

今回は双眼鏡をテーマにお話を伺いますが、平山さんと双眼鏡の接点から教えてください。
「近くに行かないと見えない手がかりなどの詳細を、双眼鏡があれば見えるんじゃないかと、まず競技のシーンで使い始めました。1991、92年あたりのリードW杯だったと思いますが、海外にもまだ双眼鏡を使用しているクライマーはいなかったんじゃないかな。もしかしたら自分が最初に使い始めたのかもしれないですね」

双眼鏡の有無で何が変わってきますか?
「双眼鏡で見ておくと、ある程度ヤマを張れるので勝負がかけやすいんです。『このホールドはこう使うんじゃないか』『これじゃなかったらこうしよう』って、何種類かムーブを事前に準備できる。ホールドに付くチョークの位置やホールドの向きもそうです。セッターが何を考えてそこにホールドを付けたのかといった情報も頭に入ってきますし、相当変わってきますよ」

具体的にはどの辺を注視されますか?
「取りつきから終了点まで一通りをすべて見ます。ただ一番はフットホールドでしょうか。実際は頭の中でムーブを思い描きながら見ていきます。『どの方向に(足を)置いていったらいいんだろう』とか『次のホールドを取ったら効かなくなってくるな』とか。最初の取りつきだけなら肉眼で十分ですが、高さが出てくると双眼鏡が必要です。いい双眼鏡は明るいですよね。コントラストもはっきりして小さなホールドの輪郭や影まで見えて、かなりの情報が手に入る。この『MONARCH 7 10×30』はすごく明るいので、競技者にとって利点が大きいと思います」

 

競技で言えば、先日行われた第15回ボルダリングジャパンカップ(BJC)では双眼鏡で観戦されている方も見受けられました。
「登りの技術的な部分に興味が湧いてくると『どういう足使いを、どういうホールディングを、どういうポジショニングをしてるんだろう』って気になってくると思います。そういった情報をリアルタイムで得られる。この『Sportstar Zoom』(倍率を8~24倍に変更可能)も相当見えますよ。8倍でもはっきりホールドが見えるし、もっと知りたいという時は指1本で倍率を変えられる。双眼鏡があれば『選手はこうやってるんだ。でも私だったらこうやるのにな』みたいな一段上の見方もできるかもしれないですね。例えばサッカーを観ていると『なんでここでシュート撃たないんだよ!』って気持ちになることがありますけど、クライミングでもそうなれるんじゃないかな。よりリアルに楽しく、幅広い視点で観戦できるようになると思います」

ちなみにそのBJCでは、Nikonも協賛し昨年スタートした『SPORT CLIMBING JAPAN TOUR』(以下ジャパンツアー)から勝ち上がった選手が男女とも決勝に進出したことが話題になりました。日本山岳・スポーツクライミング協会(JMSCA)副会長という立場として、同ツアーの開催に手ごたえを感じたのでは?
「今大会は非常にレベルが高く、ジャパンツアーを始めて良かったと実感できました。ジャパンツアーで複数大会をこなすことで経験値が上がり、多くの選手が力を付けてきている。以前は、いきなりBJCといった公式戦の環境で登るとなると、ポテンシャルを出し切れない選手が多かったように見えました。でも今大会は、予選の最後の1人まで見ごたえがあって面白かったですね。これまでは、上位に入ってW杯などの出場権を得た選手が以降いろいろな大会で切磋琢磨してどんどん伸びていくのに対し、それ以外の選手は水をあけられてしまう状況がありましたが、新たな競争のサイクルが始まり、今後は下からの突き上げがさらに加速していくんだろうなという手ごたえを感じましたね」

話は戻りますが、双眼鏡は二子山のような岩場でも重宝するアイテムですよね。
「W杯である程度使いこなせるようになってから、岩場でも使い始めました。昔はジャパンカップも岩場で行われていたことがあったんですが、外岩だとパッと見ても手がかりが同色ではっきり見えない。でも肉眼では10%しか入ってこない情報量が、双眼鏡を使うと30~50%になる。1000m級の壁でも、10数cmのピンまで見えることがあるんです。それによって登る前の下準備がしやすくなりますよね。また、双眼鏡で眺めていると『いいラインあるなぁ』『登ってみたいなぁ』って、岩場の開拓においてもインスピレーションが湧いてきます」

 

平山さんは個人、そしてJMSCAでも岩場の保全・開拓に取り組んでいらっしゃいますね。
「今競技をしている子たちもいつかは引退を迎えるわけで、彼らが積み上げてきたクライミングスキルやノウハウを、年齢を問わず生かしていけるこのような場を守り、開拓していきたいんです。ここ二子山には地元の岩場を愛してやまない子たちが集まり、岩場を守っていこうとボランティアで動いてくれています。こうした活動を広げていき、日本全国の岩場をクライマーの手で守っていける形が作れたらなと思っています。ひいてはクライミングが持つ力、自然が持つ力で、少子高齢化により人口減少が続く町々を盛り上げていけたらいいですね」

 

<MONARCH 7 10×30>
平山氏が言う「いい双眼鏡」の必須条件“明るさ”に定評があり、自然な色調で広範囲かつ鮮明な視界を実現。手のひらサイズにデザインされ、防水・防曇仕様でアウトドアでも活躍する。
倍率:10倍
対物レンズ有効径:30mm
希望小売価格:48,000円(税別)
 
<Sportstar Zoom 8-24×25 ダークブルー>
最小倍率の8倍でも「相当見える」と、平山氏が観戦時の使用にもオススメする新モデル。気軽に持ち歩けて、長時間でも疲れにくい小型・軽量タイプの3倍ズーム双眼鏡。屋内競技でも明るく鮮明に観戦可能。
倍率:8~24倍
対物レンズ有効径:25mm
カラー:ダークブルー、ホワイト、ブラック
希望小売価格:オープンプライス

※オープンプライス商品の価格は、販売店にお問い合わせください。

 
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CREDITS

インタビュー・文 編集部 / 写真 大杉和広

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PROFILE

平山ユージ (ひらやま・ゆーじ) (プロフリークライマー)

1969年2月23日、東京都生まれ。10代で国内トップクライマーに仲間入りすると、19歳で単身渡欧。その腕を磨き上げ、98年には日本人初のW杯年間優勝、00年に2度目の戴冠を果たす。その後も国内外の岩場で難関ルートを次々と踏破し、長年にわたり世界的に活躍した。10年には自身のクライミングジム「Climb Park Base Camp」を設立。現在はJMSCA副会長として競技普及や岩場の開拓・保全に尽力している。

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