FEATURE 07

裏方プロフェッショナル #001

平松幸祐(国際ルートセッター)

探求心の尽きない、終わりのない冒険

これが私のクライミング道。コンペの舞台裏で“壁”と向き合うプロに迫る当連載。初回は、日本で国際資格を有す5人のうちの1人で、2016年にはボルダリング・ジャパンカップでチーフセッターも務めた平松氏を紹介します。

※本記事の内容は2016年12月発行『CLIMBERS #002』掲載当時のものです。
 
 
IFSC(国際スポーツクライミング連盟)公認のルートセッターで、2015年にはここ山形にジム『FLAT BOULDERING』をオープンした平松さん。現職に就くきっかけとは?

「クライミングを始めたのは大学1年の時。それで当時『PUMP2 川崎店』のスタッフの方に声をかけていただき、アルバイトで働くことになり、大学を卒業する前にはクライミングの道で生きて行こうと。その時の店長が、国際ルートセッターの木村伸介さんでした。選手としてまだまだ自分を試したいという夢もあったのですが、当時40代が中心で若手がいなかったルートセッターの世界に誘われ、そこからは大会に出るのを辞めて専念しました。最初は国内大会に同行し、その後はアスピラント(無給見習い)として国際大会にもついて行く日々。初の海外は中国でのアジア選手権だったのですが、国際色豊かなセッターとチームで働く中で、この仕事を極めたいという思いが強くなったのを覚えています」

ルートセットの魅力とは?

「ドラマがあるんですよね。自分が構想を練って用意した課題でクライマーが一喜一憂する。それだけでも素晴らしいのに、想定していたシナリオとは違うドラマが起きるんです」

IFSC公認のセッターになったのは?

「アスピラントで活動していた2008年、その取得コースがオーストラリアで開催されるのを聞きました。当時から狭き門で、30人ほど受験してパスしたのは5、6人。語学スキル(英語)、クライミングスキル、大会のマネージメントスキル、そしてルートセットスキルを要求されました。それに、そこで合格しても資格がすぐ与えられるわけではない。国際大会に参加し、そのチーフセッターに『認められる』必要があるんです。僕の場合は2009年のワールドカップ加須大会で、その時のチーフを務めたのは世界的セッターのマニュエル・ハスラー(スイス)。この方がまた凄くて……誰も見たことのない課題を作る腕は衝撃でした。でも何とか負けじと食らいついて、大会終了後、彼から手紙をもらったんです。“コウスケ、お前はOKだ”と。折りたたまれたノートの切れ端に書いてありましたけど(笑)」

ルートセットをする上でモットーは?

「同じものを作るのは簡単なんです。いかに新しいものを表現していくか。今までにない角度にするとか、自分もイメージできない動きを想定してホールドを付けるとか、突き詰めていっく。選手が“えっ?”と驚く、そういうルートセットを最近は大事にしています」

素朴な疑問ですが、作った課題を完登されたら嬉しいですか?悔しいですか?

「例えば4課題を順に登って行く形式だと、各課題に役割があるんです。1つ目は半分登れる想定。2つ目は厳しくて1、2人しか登れない想定。3、4つ目は少し簡単で5人くらい登れる。トータルで完登する人数を想定していますが、目論見が外れてヤバいってなることはあります。嬉しいのは、選手が3、4回失敗したけど頑張っ頑張って時間内ギリギリで登れた時。次が予測できる課題だと、大して歓声も湧かないですしね。難局を突破して次の一手をつかんだ時の歓声って、やっぱり大きい。思わず声が出ちゃう感じ。その声が100人、1000人と集まったら凄い力になる。それを狙っていきたいんですよね。未知の一手がポンって出た時の、あのゾクゾク感。それこそスポーツクライミングの持つ魅力であり、セッターとしての醍醐味です」

近年手掛けた印象に残っているセットは?

「今年のアジア選手権『リード』の女子決勝。未知の内容で、『ボルダリング』からニュアンスを引っ張ってきたんです。アイスクリームみたいな形をした課題に、横に跳んで移動する動きを取り入れた。でも実際、野口啓代選手は跳ばなくて、アイスの部分を持って横に移動して行ったんです(下写真)。あれは想定していなかった。結末が予想できないリスクにチャレンジしたルートでしたが、想定外の動きを引き出せた点で印象に残っています」



今後の夢はありますか?

「東京2020です。ルートセッターはナショナリズムを捨てて公平さを保つセットをしなければならないのですが、純粋に能力を評価されて、裏方として参加できたら最高ですね」

平松さんにとってルートセットとは?

「探究心が尽きない、終わりのない冒険というか。大会の1本でもジムで作る1本でもそれぞれ違い、無限の面白さがあるんです。これからも新しい挑戦をしていきたい。それがクライマーの可能性を広げていると信じて」

CREDITS

インタビュー・文・写真 編集部 / 撮影協力 FLAT BOULDERING

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