FEATURE 68

独占インタビュー

森秋彩 努力の天才

どれだけ練習しても、満足できない

多くの人が待ち望んだシニア国際大会デビュー。世界選手権では得意のリードで日本人最年少メダルを獲得。幼い頃から数々の大会を制してきた16歳は、どのような心境で2019年シーズンを過ごしてきたのか。まだ幼さの残る表情から見えてきたのは、絶え間ない向上心。クライミングの天才少女は、努力の天才だった。

初めてのW杯と世界選手権
決勝で何ができるかが勝負と思うように

長いシーズン、お疲れ様でした。IFSC複合予選会が行われたフランスから1週間前に帰国されましたが、休みは取れていますか?

「帰ってきて4日ほどは休んだんですけど、今はもうクライミングを再開しています」

今年9月で16歳になった森選手ですが、クライミングを始めたのはおよそ10年前、小学1年生の時と伺いました。

「自宅近くに新しくできたショッピングモールに家族で行ったら、たまたまクライミングジムがあったんです。お父さんと体験したら楽しかったので、そこからハマりました」

小学3年生の時には、イタリアの「アルコ・ロックジュニア」というユースの大会に出場し、ボルダリング、トップロープ、スピードの3種目で優勝されています。

「その時はもう週に4、5日は登っていたと思います。優勝はもちろん嬉しかったんですけど、日本では接戦の大会が多かったから、この年代は日本人の方が技術があってレベルが高いんだなと感じました」

今年シニアの国際大会にデビューするまで、すでに国内外で数多くの大きな大会に出場されてきましたが、印象に残っていることは?

「ユースの大会では大きなミスはなく、納得のいく成績を残せたと思うので、そこは良かったなって」

W杯や世界選手権という舞台は、ご自身の目にどのように映っていましたか?

「小学生の頃から将来の目標にしていたので、まさか本当に自分が出られることになるなんて信じられなかったです。でも、やっとここまで来たんだなっていう感じがしました」

4月のスイス・マイリンゲン大会(ボルダリング)がW杯デビュー戦となりました。その時の心境は?

「緊張はまったくしなかったです。不安もなかったし、初めての体験で『W杯ってどんな感じなんだろう?』という好奇心だけでしたね」

緊張はあまりしないタイプですか?

「よく言われますが、結構します」

大会になるとそうでもないとか?

「国内大会はすごく緊張するけど、最初のW杯では全然しなくて。自分が世界でどれくらいの位置にいるのかを知りたかったから、プレッシャーもないし、気負うこともなかったです」

いつも壁の前に立った瞬間は、どんな気持ちでいるのですか?

「コールゾーンで待っている時は震えちゃうくらい緊張しているんですが、壁の前に出てからは自然と切り替わって、いつもより実力が出せるようになっていると思います」

大会でいつも以上の力が出る?

「はい。実際、コンペで登れた課題がアフターセッションになるとできないこともあるので、アドレナリンが出ているんだと思います」

ボルダリングW杯の1、2戦目は残念ながら予選敗退でしたが、第3戦の中国・呉江大会では3位と一気に表彰台まで駆け上がりました。躍進の要因はどこにあったと考えていますか?

「最初の2戦がすごく悔しかったんですけど、その悔しい思いを引きずりすぎないで、次に切り替えてネガティブにならず前向きに臨めたことが一番良かったのかなと思います」

表彰台ではヤンヤ・ガンブレット選手、野口啓代選手と並び立ちました。

「今までテレビなどで見ていた夢のような存在だったから、まさか同じ表彰台に乗れるとは思ってもいなくて信じられなかったです」

 
写真:IFSC/Eddie Fowke

続く7月からのリードW杯では初戦で3位。そこから4戦連続で決勝に進出しました。

「W杯で決勝に残るのはすごいことだと思っていたんですけど、それからは決勝が当たり前になったというか、決勝でどういうパフォーマンスができるかが勝負だなと思うようになりました。でも、出始めた頃は楽しめていたんですが、だんだんと『結果を残さなきゃ』とか『絶対いい登りをしなきゃ』と気負ってしまう部分があって、それであまり実力を発揮できなくなる大会が出てきてしまいました」

そんな中で、8月の世界選手権ではリード単種目で3位となり、かつて野口選手が樹立した同大会の日本人最年少表彰台記録を更新しました。

「もうちょっと行けたかなっていう感覚もあって、表彰台に乗れたのは嬉しいけど、登り的にはもうちょっと出し切りたかったですね」

単種目後に行われたコンバインドのリードでも予選で唯一完登し、決勝もガンブレット選手に並ぶ完登を記録しました。大会の中でまた一段とパフォーマンスが上がった印象があります。

「(大会初日の)ボルダリングで予選落ちしてしまい、それでいい意味で諦めがついたというか、『あとはダメかもしれないから楽しんでやろう』というふうに気持ちを切り替えられたのが、いい登りに繋がったんだと思います」

 
写真:窪田亮

 
 

ライバルがいるから強くなれる
追い込むのが楽しい。大の負けず嫌い

森選手のリードの登りを見ていると、終盤になって負荷がかかっているような場面でも、粘り強く切り抜けていきますよね。

「完登したい気持ちがすごく強いので『絶対に離さない』って思ってるし、練習もかなり追い込んで頑張ってきているから、それを『無駄にしたくない』とか『これだけ練習してきたから大丈夫』という思いで一手一手進んでいます」

3種目をこなすコンバインドを終えた後でも、『体力的な問題はあまりなかった』というコメントをよく残されていますよね。相当な練習量を積んでいるのでは?

「普段から練習量が多いので体力には自信があります。普通はヨレたらそこで終わることが多いと思うんですが、自分はそこから持久力トレーニングをしたりしています。ヨレてから登るのが好きなので、そういうところが長期間の大会になった時に活きているのかなって」

ヨレてから、どれくらい登っている?

「リードでだいたい自分の限界に近いグレードを10本くらい登って、そこで疲れてきたらグレードを落として、レストの間隔を狭めながらさらに10本くらい登っています」

きつい状況になればなるほど、モチベーションが上がる?

「はい。追い込むのが楽しいなって思います。どれだけ練習しても、満足できないんです。最終的には『ケガするからやめなさい』って言われて、やめるみたいな。登れる時間があったら、常に登っていたい」

森選手は「保持力がとても強い」という声を他の選手からもよく聞きますが、何か特別なトレーニングをしているのでしょうか?

「特にやっていません。好きな課題をやりたくなっちゃうから、結果的に自分の好きな保持系課題をたくさんやることで、どんどん上手になっていくのかなと思います」

オブザベーションでは具体的な体勢まで頭に入れていますか?

「オブザベでは『これは左手で掴んで』みたいな大まかな動きは決めるけど、例えばキョンとか、ここで休むとか、具体的なことに関しては現場処理することが多いです」

今年のW杯では同じ2003年生まれのソ・チェヒョン選手(韓国)、ツァン・ユートン選手(中国)、谷井菜月選手も活躍しました。特にソ選手はリードで年間優勝も飾っています。強い同世代がいることについてはどう考えていますか?

「競い合うことでモチベーションも上がるし、『この人に負けたくない』って思える。お互いにライバルでいることによって高め合い、その世代が一緒にレベルアップすることができるので、すごく大切な存在だと感じています」

今の話もそうですが、結果にかかわらず悔しいとか、優勝すると満足しちゃうところがあるとか、普段の言動からも強い向上心を感じます。

「大の負けず嫌いだし、満足してしまうとそこで終わってしまう気がして。けっこう自分に厳しいので、まだまだ十分じゃないとか、あそこが全然ダメだったとか、毎回反省点が出てきちゃいます。クライミング以外でもスポーツをする時は負けると悔しくて、『勝つまでやろう』みたいな感じになります」

今シーズンは世界と戦うために、これまでの軽さを利用してねじりながら登っていくイメージから、パワーを付けて壁に平行となりガシガシ登っていくような登りに変えたと聞きました。

「W杯初戦に出てみて全然敵わなかったので、あらためてパワーやスタミナを付けていかなければと感じたんです。それからは登るだけじゃなく、懸垂や腹筋などの基本的な筋力トレーニングを以前よりするようになりました」

 

1年を終え、モデルチェンジの手ごたえは?

「少しずつ力の入れ方も変わってきたし、前は届かなかったような課題にも対応できるようになってきたので、いい変化を感じています」

シーズン前は『世界で自分がどの位置にいるのか知りたい』と思っていたとのことですが、実際に通用した部分や改善したい部分は?

「ヒールフックやキョンといった足技などの技術面や、スラブなどのバランシーな課題では通用していたと思います。でも、ランジやコーディネーションといったダイナミックでパワフルな動きがまったく通用しませんでした」

国内と海外の大会では、それぞれのダイナミックな課題にも違いがあるのですか?

「日本の大会ではテクニカルなランジを要求されることもあって、足が悪かったり手が飛び出しづらかったりします。でも海外では手と足はガバで、単純に距離を出すような課題が多い。それだと純粋にパワーが求められるので、技術でごまかせないんです」

 
 

16歳の素顔、五輪という目標
今のまま、自分らしい登り方で

クライミング中の姿から森選手には冷静沈着な印象がありますが、家では?

「結構、テンション高いです。小学4年生の弟がいるんですけど、喧嘩もよくするし、ふざけすぎて親に怒られることもあります(笑)」

チョークバッグに付いているキャラクターが気になります(笑)。

「あれはバンド『SEKAI NO OWARI』のメンバーです。大会前に曲を聞いたり、遠征に行く車の中でDVDを観たり。クライミングを続けていく中で、『SEKAI NO OWARI』は私にとってすごく大切な存在です」

他に好きなものは?

「(SEKAI NO OWARI)一筋で、ファンクラブにも入っています」

クライミング以外に趣味はありますか?

「休みの日はそんなにうまくはないけど、絵を描いたり工作したりしています。ひたすら作業する地道なことが好きで、お風呂で本を読むのも好きです」

映画もよく観ると聞きました。

「弟と『クレヨンしんちゃん』だったり、ディズニー映画を観に行ったりしますね」

仲が良いんですね。弟さんをはじめ、ご家族のサポートも大きいのではないでしょうか?

「お父さんはいつもビレイや移動時の運転をしてくれるし、お母さんも遠征についてきてくれます。弟も土日は遊びに行きたいと思うんですけど、私のことを優先してジムとかについてきてくれるので、すごく感謝しています」

 

今シーズンからは海外遠征などで他の日本代表選手と交流する機会も増えたのでは?

「野口さんや野中(生萌)さんとは宿泊先で同じ部屋の時もありましたし、一緒に練習する機会が増えました」

野口選手、野中選手という2人のトップ選手と間近に接することで感じたことは?

「たくさん大会に出て、プレッシャーも自分とは比べ物にならないほど大きいと思うのに、毎回堂々と登っていて、結果もしっかり出しているので、本当に勝負強いと思います。2人ともクールでかっこいいイメージでしたけど、実際に近くにいると明るくて優しいです」

現在その出場権については不透明な状況ですが、オリンピックに対する思いは?

「世界選手権の前は全然考えてなくて、2024年のパリ大会に出られればいいなと思っていた程度なのですが、世界選手権に出場してからは東京オリンピックを意識するようになって、今ではそこを一番の目標にしています」

現に東京五輪フォーマットのコンバインドでは、コンバインドジャパンカップ3位、世界選手権6位、複合予選会5位とすべて決勝進出。複合予選会ではスピード最下位からボルダリング、リードで逆転しての予選首位通過でした。

「自分にとって一番重要なのはリードで1位を取ることで、次にボルダーでなるべく高い順位を取ること。スピードの結果はあまり気にしないようにしています。リードとボルダーをもっと磨いていくことが大事だと考えています」

先ほどお話に出たパリ五輪では現状、ボルダリング&リードの複合と、スピード単種目に分かれての実施が濃厚と言われています。

「自分はスピードが苦手だから、その点では東京よりもパリの方が成績を残しやすいとも思っているので、もし東京がダメだったとしても、パリに向けて全力で頑張りたいです」

将来的にどんなクライマーになりたい?

「私は他の人と登りが違うって言われることが多いので、今のまま自分らしい登り方をするクライマーでありたいです。あとはヤンヤ選手などのように、一つひとつの課題を楽しんで、結果だけにとらわれずに、大会自体を楽しめるような選手になりたいと思っています」

最後に、今後の目標を教えてください。

「今の目標は東京五輪に出ることです。そして、オリンピックが終わってもW杯はずっと続いていくので、まずは来年のW杯で初めてのシーズンよりもいい成績を残して、リードでは優勝してみたいなって思っています」

CREDITS

インタビュー・文 編集部 / 写真 永峰拓也 / 撮影協力 Fish and Bird 東陽町
※このインタビューは2019年12月10日に収録されました。

PROFILE

森秋彩 (もり・あい)

2003年9月17日生まれ、茨城県出身。小学生時代から国内外で数々の大会を制し、18年にはシニア選手を抑えてボルダリングジャパンカップで2位、リード日本選手権で優勝に輝く。シニア国際大会デビューの19年はリードW杯の出場5戦中4戦で決勝進出(年間6位)、世界選手権では日本人史上最年少メダル(銅)をリード単種目で獲得した。

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