FEATURE 65

インタビュー

双眼鏡で、クライミングをもっと楽しく 連載 第1回:藤井快

完璧なオブザベーションに、双眼鏡は欠かせません

クライミングに欠かせないアイテムの一つが、双眼鏡である。特にリード競技のオブザベーションにおいて、選手たちがレンズを覗き込む光景はおなじみだろう。今号(CLIMBERS第14号/2019年12月発行)から始まる本連載では、双眼鏡で拡がるクライミングの魅力をお届け。第1回は、自身もNikonの双眼鏡を愛用中という藤井快選手にその重要性を競技者の視点から語ってもらった。

※本記事の内容は2019年12月発行『CLIMBERS #014』掲載当時のものです。
 
 
今年は8月に東京で世界選手権が開催されました。まず初めに、この大会の感想から聞かせてください。
「自分の望んだような形にはならず、すごく悔しい思いをした大会でした。その半面、活躍する日本人選手がたくさんいたので、自分も大事な場面で勝てるようにトレーニングしないといけないなと実感しました」

3種目ともまだまだ向上させる必要があると?
「そうですね。でも一番悔しかったのはリードです。最後は1手や半手の差の世界でした。そこでしっかり実力以上のパフォーマンスを出して、順位を上げられるか。リードによりフォーカスしていき、最後の最後に自分で結果をたぐり寄せられる実力をつけたい。わかってはいたことなんですが、あらためて感じました。大会が終わって1週間後、オーストリアのインスブルックに1人で行ってリードの練習をしました。少し環境を変えて自分の中でこの結果を消化しないとまずいとも思ったので」

そのリードでは、オブザベーションの際にNikonの双眼鏡を使用されているそうですね。
「はい。『Monarch 7 10×30』を使っています。自分が観客の時にも、そのルートにどんなホールドがあるのかが気になるのでよく使用していますね。オーストリア遠征では他の荷物の重量の関係で持っていけなかったんですけど、壁が高くて肉眼だとあまりオブザベーションができず、『持っていけばよかった』って後悔しました(笑)」

双眼鏡でオブザベーションの質はだいぶ変わりますか?
「ホールドの持つ向きとか、厚みとか、実際に登ると思っていたのと違うことがけっこうあるんです。下からは見えにくい小さいホールドが付いていたりすることもある。大会では事前に練習ができないので、1回のオブザベーションでそのホールドを見つけて、動きをしっかり作っていくことがかなり大事になります。その点で重宝していますね」

オブザベーションでは何を、どういう順番で見ている?
「僕の場合は、まず肉眼でゴールまでの手順を追います。すごく複雑な動きなどは置いておいてとりあえずラインを見た後、あそこの手はどうかかる、足はどうなる、というふうに双眼鏡で見ていきます。ムーブがわからない核心部分が見つかったら、そこも重点的に覗いていますね。ホールドにさらに小さいのが付いていて、しかも同じ色だったりするんですよ。そういうのは双眼鏡で見ないと気づかなかったってのはよくある話です」

ムーブの読み落としを減らす意味でも双眼鏡は重要なんですね。
「登った時の感覚が想定と合っていればスムーズに行けるんですけど、違った場合はフリーズしちゃって次の動きを発見するまでに時間がかかってしまうんですよね。トップ選手でもオブザベーションのミスはよくある。それを避けたいから、ムーブの引き出しを増やすために『俺はこう思うけど、お前はどう?』って選手同士で意見を交換しています。あと、僕ら選手はホールドがどこのメーカーのもので、どういう系統かも見ています。知っているホールドだと、これはたぶん持てるだろうって想像できる。ただ、見た目が同じでも持った時の感覚が全然違うことがあるので、登った時にびっくりしないようにしっかり確認しておきます。どれくらい持てるかがわかれば、ロープをクリップするタイミングも把握しやすくなりますね」

 

今年3月にはリードジャパンカップ(LJC)で初優勝されましたが、それにも双眼鏡の影響が?
「今シーズンはさらに細かく見たいので10倍を使っていますが、もともとNikonの8倍のものを使っていました。LJCの優勝はオブザベーションが完璧だったことも一因だと考えていて、そういう時は使ってよかったと感じますね。せっかくだし良いものを、と思って去年から使い始めたんですけど、その時からオブザベーションが楽しくなってきています(笑)」

観戦者にとっては、双眼鏡があるとどんな利点がありますか?
「選手の動きをより大きく見られるのはもちろんですが、やっぱり壁から遠いと、どこを持っているかやなんで落ちるのかがいまいちわからない。『なぜ足場が安定しないんだろう?』とか『どうしてあんなところに立てるの?』って感じる場面が出てくると思います。そういう時に双眼鏡が活躍するはずです」

Nikonといえば、今年スタートした『SPORT CLIMBING JAPAN TOUR』(以下ジャパンツアー)にも協賛しています。この大会はシリーズ戦で、近年の国内公式大会にはなかったスタイルが特徴ですが、藤井選手の印象は?
「単純に大会数が増えて新たな目標となり得るものができたのは、すごくいいことだと思います。僕らのようにW杯に出ている代表選手と比べて、ジャパンカップでその選考に漏れた選手は、それが終わってしまうと各地のクライミングジムで行われている大会に出ることしかできない。オフィシャルでこのような大会を開催することに大きな意味があると思います」

日本代表の選考大会であるジャパンカップは、種目ごとに年1回の開催ですからね。
「だから来年の代表権を取るにしても次のジャパンカップが先過ぎて、1年後へのモチベーションを保ち続けるのはすごく大変なんです。シリーズ戦のジャパンツアーがあることで、今のままでいけばいいんだとか、このままじゃダメだって、自分の実力のアップダウンを感じ取りやすくなると思います。ジャパンツアーによって、日本全体の実力がさらに上がっていくといいですね」

 

<MONARCH 7 10×30>
藤井選手も愛用する本格防水仕様「MONARCH 7」の30口径モデル。広視界タイプで、多層膜コーティングにより明るい視界も実現している。コンパクトで手のひらサイズのデザイン。
倍率:10倍
対物レンズ有効径:30mm
希望小売価格:48,000円(税別)
 
<Sportstar Zoom 8-24×25 ダークブルー>
2019年12月に発売された最新モデル。一番の特徴は倍率の変更(ズーム)が可能な点。藤井選手は「24倍でホールドを細かく見て、8倍で選手全体を見られる」と観戦時の使用にも太鼓判。
倍率:8~24倍
対物レンズ有効径:25mm
カラー:ダークブルー、ホワイト、ブラック
希望小売価格:オープンプライス

※オープンプライス商品の価格は、販売店にお問い合わせください。

 
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Nikon特別サイト 好きがもっと深まる。
 
連載第2回はこちら

CREDITS

インタビュー・文 編集部 / 写真 永峰拓也 / 撮影協力 PUMP2 川崎店

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PROFILE

藤井快 (ふじい・こころ) (スポーツクライミング日本代表/TEAM au所属)

1992年11月30日、静岡県生まれ。クライミングジムに勤務し、会社員と競技者を両立する。恵まれた体躯を誇るオールラウンダーで、国内では2018年にボルダリング男子前人未到の3連覇を達成すると、19年にはリード1位、スピード2位に輝く。ボルダリングW杯でも近年は年間ランキング上位を定位置とし、日本男子の躍進を牽引してきた。

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