FEATURE 06
独占インタビュー
野中生萌 女性クライマー「強さ」のヒミツ
私はただ、強くなりたい
“強いクライマー”と聞いて、彼女の登りを思い浮かべる人も多いはずだ。2016年はワールドカップ年間ランキング2位、世界選手権2位と頂点に迫り、さらには女性限定コンペまでプロデュースしてしまうパワフルな19歳。女性クライマー、強さのヒミツ。野中生萌に聞くしかないだろう。
※本記事の内容は2017年3月発行『CLIMBERS #003』掲載当時のものです(インタビュー収録日:2017年2月8日)。
目の前に見えた「世界一」の座
ケガを乗り越え…… 諦めなければいける
最近では世界の注目すべき女性アスリートの一人として、アディダス『Here To Create』キャンペーンのモデルでも活躍中ですね。駅や電車内に貼り出された写真、あれはかなり反響があったんじゃないですか?
「自分では全然、実感がなくて。11月にニューヨークで撮影したのですが、私はただ懸垂してただけなので(笑)。こんなにカッコ良く仕上げてくれたんだと感動しました」
今日はまず、1月下旬のボルダリングジャパンカップから話を聞いていきたいのですが、3位という結果については?
「オフに入るのが遅く新シーズンに向けて調子を上げられていなかった中で、表彰台に上がれたのは良かったなと。最低ラインをクリアできてホッとしています。全課題の系統が似ていた大会で、いろんな対応ができる自分を見せられなかったのですが。でも、楽しかったですね」
優勝した伊藤ふたば選手や森秋彩(あい)選手をはじめ、U‒15世代が台頭した大会でした。彼女たちの活躍にプレッシャーを感じたりは?
「表彰台に上れないのはマズいな、という意識はありました。ただ代表選手はみんな、春以降のワールドカップにフォーカスしていると思うので、今大会に関しては負けたからどうとかはあまり考えていなかったです」
若手が好成績を残している背景には、他にどんな要因があると思いますか?
「昔は“つかんで登る”ものだったクライミングスタイルが圧倒的に変わっていること。今は保持力だけでなく、様々なムーブができて当たり前だし、年々レベルが上がっていますね」
2016年を振り返ると、ワールドカップでは年間ランキング2位。前年の3位から着実にステップアップしている印象ですが、あらためてどんなシーズンでした?
「ケガも多くて思うようにできない時期もあったんですけど、そんな中でも前年より良い成績で終われたので、悪くはなかったかなと」
9月の世界選手権パリ大会は、最終的にはアテンプトの差でペトラ・クリングラー(スイス)に次ぐ2位でした。
「優勝は厳しかったですね、正直。1位との差はけっこうあって、彼女はあの大会を完全に自分のものにしきっていた。全然かなわないな、とやりながら感じていました。ただ行けるところまでは行けて、本当に最後の最後までチャンスがあったので、そこは満足しています」
満足感と悔しさ、どっちが大きい1年?
「同じくらいですね。トータルでは良かったと言えますが、一戦一戦ではどこかしら、何かが欠けていたから優勝を逃してきたわけで。そこは今年の伸びしろとしたい部分です」
年間成績を見ると、野中選手の上でショウナ・コクシー(イギリス)が頭一つ抜けていました。彼女との差があるとすれば?
「どんな課題がきても強いという。それが結局、安定して上位にいられる理由だと思うんです。あれだけシーズンが長いと去年みたいにケガをすることもあるし、単純に調子を維持するのも大変なので。メンタルもそうですが、“常に保つ”という点で差を感じました」
ケガの話が出ましたが、それに向き合ったことで得た教訓や気づきはありましたか?
「諦めなければいける、ということでしょうか。5、6月の頃はスプーンやフォークの重さに耐えられないほど痛みがあったんです。その状況で大会まで1週間って時に、出場か欠場かを悩みながら諦めずにできることをやって。結果、インスブルック大会(オーストリア/第5戦)に出たら3位に入れ、次戦のベイル(アメリカ)でも決勝に進めて、最終的に年間2位になれたという。あそこで諦めていたら絶対になかったと思うし、辛かったですけど、それを乗り越えられたことで自信になりました」
春からは2017年シーズンが本格的に始まります。ワールドカップへの参戦予定は?
「ボルダーは全部出る予定で、今年こそ年間優勝を狙いたい。リードは3月の日本選手権で代表権を獲れないと話にならないので、それができたら何戦か出たいと思っています」
スピードの出場は考えていますか?
「機会があれば。私は瞬発的な動きが好きなのでリードよりも向いているかもしれません」
今シーズンの目標は?
「ボルダーのワールドカップ年間優勝ですね」
ライバルを挙げるなら? 例えば今年は、2月の全米選手権で準優勝した白石阿島選手もワールドカップに参戦できる年齢になりました。
「うーんライバル、誰だろう? メリッサ(・レ・ヌーブ/昨年3位)は引退しちゃったし、次に誰が出てくるか、今年もまたわからない感じですね。絶対に(野口)啓代ちゃんとは争うことになるし、それこそ阿島ちゃんが出るなら必ず上位にくるだろうし。でも最終的には、目の前の壁を自分が登れれば勝てるので」
年間王者になるために、自分のここを改善できたら……というイメージはありますか?
「昨年2位の自分に足りなかったのは、重要な局面で一手をつかみきれなかったこと、メンタルの持っていき方……様々あるんですけど、先ほども言ったように、テクニック的にも心身の両面でも、その『何か』で優勝に届かなかったので。勝負の一手だったりバランスだったり、しっかり見極めて鍛えていきたいですね」
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CREDITS
インタビュー・文 編集部/
写真 森口鉄郎 /
撮影協力 Monolithe ボルダリングジム
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PROFILE
野中生萌 (のなか・みほう)
1997年5月21日、東京都生まれ。9歳でクライミングと出会い、2010年にはリードのJOC ジュニアオリンピックカップ王者に。14年に16歳でボルダリングのワールドカップに初参戦すると4大会で決勝に進出し、翌年は年間ランキング3位に躍進する。16年は第4戦(初優勝)と最終戦を制すなど7大会中5大会で表彰台に上がり年間2位。世界選手権でも準優勝を果たした。クラシックバレエと器械体操で培った柔軟性を武器に、繊細かつダイナミックなムーブで世界を魅了するトップクライマー。