FEATURE 49

楢崎明智(TEAM au 所属)

楢崎明智、兄・智亜と一緒にオリンピックへ

夢につながる…世界選手権で優勝したいです

天真爛漫、大胆不敵。フィジカルもメンタルもスケールの大きな19歳である。2018年は怪我を乗り越え、国内外のユース大会に加えてシニア大会でも上位進出を連発。大の仲良しである兄の背中を追って、着々と世界トップクラスへの階段を上ってきた。五輪フォーマットのコンバインド(3種目複合)で「一番勝てる可能性がある」と言う期待の新星に、500日後に決戦を控えた現在の手ごたえ、思いを語ってもらった。

今季3戦で感じた成長と課題
攻めどころを見極める力がまだ足りない

3月のLJC(リード)で3つのジャパンカップが終了しました。BJC(ボルダリング)8位、SJC(スピード)10位、LJC4位という結果をどう受け止めていますか?

「みんなには3種目とも振るわなかったねって言われるんですけど、僕の中では思ったよりもいけた感覚があって。あまり国内大会で活躍できた経験がないので『あれ、意外と自分、成長してるな』と感じています。特に日本代表の選考大会には苦手意識があり、今まで単種目の大会ではメダルを獲ったことがなく、決勝も今回のLJCを含めて3回しか行けてないんです」

なぜ苦手意識が?

「ビビっちゃうんですよね。みんな強いんですよ。(藤井)快君とか(杉本)怜君とか。『あ、強い人いる』みたいな(笑)。ワールドカップ(W杯)とかになるとそういうのがなく『自分はどこまで行けるんだろう』って感じなんですが、国内大会は『倒しに行かなきゃいけない』じゃないですけど、それに近いものがあります」

LJCでは予選、準決勝ともに通過ライン上の成績での突破でした。それによって準決勝、決勝と続けて1番手で登ることになりましたね。

「準決勝に関しては通過ラインがかなり上の高度でしたよね。ああいう課題だと1番手は有利ではないと思いました。通過ラインが上部の時は最後の方に出ると声援やクリップの揺れ方でどのあたりがポイントかわかるんですよ。1番手だとそれがない状態なのでどこを目安にしたらいいかわからない。他の選手がフォールしている場所で声援が大きくなると『この一手を止めなきゃいけない』ってより頑張れるんです」

そんな不利な状況でも準決勝、決勝ともに終了点近くまで進めています。

「何も考えず、無心で登っていました。登る前はワクワクしてたんです。1番手でTOPまで登ったらあとから登る人盛り上がんないだろうなって(笑)。下部に核心(課題の中で最も難しい部分)がある大会だと1番手はプレッシャーをかけやすくなるんですけど、それが終盤の場合、ペース配分がしづらくなる感じはしますね」

3大会を通して見つかった課題は?

「これもLJCでの話になりますが、決勝で核心パートを読み違えてしまい、パワーの出力を上げるべきところの1個前で上げすぎてしまった。攻めどころを見極める力がまだ足りないですね。もちろんフィジカル面もまだまだ弱いと思っています。リードでは落ちる直前に毎回足が抜けてしまう。前腕より先にボディがヨレちゃうんですよね。もう、課題しかないです」

少し時間を戻して、昨シーズンを振り返りたいと思います。2018年2月のBJCでは残念ながら開始直前に腰を怪我されてしまいました。

「もともとずっと痛みは感じていて、ウォーミングアップ中に痛みが増して、最終的には荷物を拾う時に一気に激痛が走って。立てないほどのつらさでした」

その影響により、W杯の出場も自国開催の八王子大会のみとなってしまいました。

「正直、あの時はスポンサーが付いた直後ということもあって強いプレッシャーを感じていました。僕も先輩たちに続かないと、頑張らないとっていう気負いがあったんです。それで当時は周りと自分を比べてしまって、自分らしいクライミングが全然できなくて。でも結果的にプレッシャーがなくなった分、しっかり自分を見つめ直すことができました。落ち着いてクライミングができるようになりましたね」

実際、怪我から復帰後は多くの大会で活躍されました(国内と世界のユース選手権でボルダー、リード2冠、世界選手権でリード4位、アジア選手権でボルダー、コンバインド2冠など)。ご自身の中で印象に残っている大会は?

「コンバインドジャパンカップ(CJC)ですね」

シニアの国内大会で最高順位の2位でした。

「(3種目それぞれ順位によって)得点が出るので、みんなと競い合っている感じが楽しかったですね。予選はドロドロした戦いみたいで嫌なんですよ。『誰か落ちねぇかな』ってみんな言ってるし(笑)。でも決勝は楽しいです。『俺何点だから何位獲らなきゃ。じゃ、明智よろしく!』みたいに智君(兄・智亜)にも言われて」

自分より下の順位をよろしくと?

「はい(笑)。そういう会話も楽しいですね」

結果は、公式戦では初となる智亜選手とのワンツーフィニッシュでした。

「それもあって印象に残っています」

 

 
 

目標は五輪3大会連続出場!?
できれば智君と出たい。絶対に楽しい

 
2020年東京五輪でスポーツクライミングの追加競技採用が決まったと聞いた時はどう感じましたか?

「クライミングが有名になるという意味ではすごく嬉しかったんですが、自分がそこで何かをするとかは正直、何も浮かばなかったですね。家にテレビがなくてオリンピックを見たことがなかったし、そもそもクライマーが出場したことはないので、あまり実感が湧かなかったです」

オリンピックには出場したい?

「もちろんです。できれば智君と出たいですね。仮に2人で出たらどっちかはメダル獲るんじゃない?って話をします。一緒に出場できたら絶対に楽しいと思いますし」

今年は8月にオリンピック出場権の懸かった世界選手権が八王子で行われますね。

「今から緊張しています(笑)。自国開催にはあまり得意なイメージがないんです。国内選考大会が苦手みたいなもので。でも日本で開催されること自体はかなり嬉しいですよ。リード、ボルダー、コンバインドのどれかで優勝したいです。僕はクライミングを始めた頃から世界選手権で優勝するのが目標でもあるので」

明智選手はコンバインドが特に強いという印象があります。

「世界ユース選手権2017、CJC2018、アジア選手権2018の3大会では決勝に残れて、順位も1位、2位、1位。確かに勝率は良いんですけど、でもどの大会もギリギリでの結果でした。ただコンバインドではボルダーの課題が少し易しくなる印象があって、距離感が遠くなったり、飛んだり跳ねたりとかの魅せる課題が出てくる。それが得意な僕にとっては、今のところ有利に働いている感じはしますね」

コンバインドへの自信は? スピード種目も専門としていない選手の中では速いですよね。

「自信があるって言い切れるほどコンバインドの大会に出ていないので何とも言えませんが、イメージが良いのは確かです。でも智君とかがいつも言ってるんですけど、コンバインドは運要素が大きいから、毎回『運良かったな』って思いますね。自分1人で勝つには全種目極めるしかないじゃないですか。僕は別に全部を極めているわけでもないので、大会によってはまったくダメな時も出てくるのかなって」

では、一番自信のある種目は?

「世界のトップと戦える自信が唯一あるのはボルダーです。リードはアダム(・オンドラ)、ヤコブ(・シューベルト)、ドメン(・スコフィッチ)など、エグい強さの選手がたくさんいますから。世界選手権2018では4位でしたけど、表彰台との差はまだ相当あると思っています」

3種目の強化にはどう取り組んでいく?

「ボルダーでのナガモノをたくさんやって、まずはリードとボルダーを強化したいですね。スピードはもっと練習頻度を増やしたいです」

スピードのタイムが縮まる手ごたえは?

「最近はフィジカルトレーニングも取り入れ、スタートのランジのパートとか前より楽に感じるようになったので速くなる感覚はありますね。6秒中盤から前半は出せるようにしたいです」

2024年パリ五輪でもスポーツクライミングの採用が確実視されています。その時25歳、2大会連続出場の可能性は十分ありますね。

「目標は2028年ロサンゼルス五輪も入れた3大会ですけどね。全部優勝したら(陸上競技で3大会連続金メダルの)ボルトみたいになれるんじゃないですか(笑)。冗談はさておき、このまま頑張っていればどこかしらのオリンピックに出られるイメージはあります」

 

 
 

今年でハタチ、メイチの素顔
オフはゲーム、毎朝イチゴ、憧れはドミ

ところで、そもそもクライミングを始めたきっかけは何だったのですか?

「智君の影響ですね。いつも智君にくっついていたら勝手にやってた感じで。小学2年生の時です。最初は幼かったので登らせてくれなかったんですけど、1年間、智君の登りだけ見に通っていたら登らせてもらえるようになりました」

小さい頃から仲が良かったのですね。

「自分の同年代より、智君の同年代と遊ぶことの方が多かったです」

ご自身のクライミングの特徴とは?

「リーチを生かした登りで、スラブやコーディネーションも得意です。苦手なのはコンプレッション系(挟み込む動き)。でっかいハリボテを抱える動きとか。ごっついアンダーも出てきたらキツい。細いホールドのピンチも苦手です」

5月で20歳。やってみたいことは?

「ないんですよね。酒もタバコも興味ないし。『俺ハタチだし』って言えるようになるくらいですかね、『お前らまだ19なのかよ』って(笑)」

10代でやり残したことは?

「学生生活ですかね。クライミングばかりで、学校での青春とかまったくなかったです」

昨年で卒業したユース代表での思い出は?

「勝てなかった記憶しかないです。ジュニアではうまくいったんですけど、それ以外は力を出し切れないイメージが強かったですね。初めて出場した世界ユース選手権では過呼吸になるほど緊張していたのを覚えています」

オフの日は何をしていますか?

「ゲームしてますね。智君とやってます。スマホだったりPS4だったりPCだったり」

オンライン対戦とか?

「でも智君とは対戦ゲームはあんまりやらないんですよね。どっちかが勝つとイライラしちゃうじゃないですか(笑)。いつからか僕の方がうまくなってしまって、基本的に僕が勝つんで、だいたいはチームを組むゲームをやっています。アクションもシミュレーションも好きだし、有名どころのゲームはほとんど持ってますね」

出身地、宇都宮のオススメは?

「かりまんと餃子です。あとイチゴ! 最近は毎朝『とちおとめ』を食べてます。甘さが詰まってて美味しいですよ」

憧れのクライマーはいますか?

「世界選手権で3度優勝しているドミトリー・シャラフディノフ(ロシア)とヤン・ホイヤー(ドイツ)ですね。ドミはムーブの幅が狭いくせに強すぎて何でもできちゃう。2人とも野生感があってかっこいいです。強さで課題を破壊する感じが好きですね」

智亜選手とは最近、栄養面の話などもするようになったとか。

「智君の家に泊まりにいった時には、ストレッチのやり方とか、何を食べたらいいかとか、そういう話をする機会が増えましたね」

以前「兄にはずっと自分より上の存在でいてほしいと思っていたけど、超えたい欲も芽生えてきた」という話を伺いました。最近は?

「ぼちぼちですね(笑)。もちろん1位か2位かで言ったら1位になりたい。でも絶対に負けたくないって気持ちは誰に対してもそこまでないんですよね。1位にはなりたいと思うし、なれなかった時は自分の反省点を見直しはしますけど、負けたくないっていうのはあまりない。『負ける』というワードすら考えたくないんですよ。頭の中には『勝ちたい』って入れたいんです」

最後に今シーズンの目標をお願いします。

「まずはCJC(5月)の決勝に残ること。そうすれば世界選手権のコンバインドに出場できます。オリンピックの代表権が懸かっていますし、一番勝てる可能性があるのがコンバインドっていう意味でも、特に優勝したいですね」

CREDITS

インタビュー・文 編集部 / 写真 永峰拓也 / 撮影協力ZE-RO 宇都宮下栗店 ※このインタビューは2019年3月7日に収録されました。


PROFILE

楢崎明智 (ならさき・めいち)

1999年5月13日、栃木県生まれ。3歳上の兄・智亜の影響で小学2年時にクライミングを始め、10代前半から国内大会で優勝を経験。長身と長いリーチを生かした登りを武器に、16年にはボルダリングW杯第5戦で初の表彰台(2位)に立つ。18年は世界ユース選手権のボルダリング&リード優勝に加え、シニア大会でも世界選手権でリード4位、アジア選手権でボルダリング&コンバインド優勝と躍進した。

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