FEATURE 43
裏方プロフェッショナル #009
清野隼(森永製菓トレーニングラボ アドバイザー)
クライマーと共に、より良い栄養補給計画を
これが私のクライミング道。舞台裏で“壁”と向き合うプロに迫ったインタビュー連載。第9回は、管理栄養士やスポーツ公認栄養士の資格を持ち、「森永製菓トレーニングラボ」で渡部桂太選手の栄養サポートを担当するカラダ作りの専門家、清野氏を取材した。
※本記事の内容は2018年12月発行『CLIMBERS #010』掲載当時のものです。
「森永製菓トレーニングラボ」とは?
「アスリートの目標を一緒に達成することをミッションに掲げ、トレーニングや栄養、コンディション面からアプローチをして、パフォーマンス向上に取り組んでいる施設です」
スポーツクライミング界では渡部桂太選手、藤井快選手をサポートされていますね。
「現在は渡部選手の栄養サポートを担当し、以前は藤井選手も担当していました。2人とも向上心がとても強くて、自分も常に成長していかないと置いていかれそうになります(笑)」
具体的なサポート内容は?
「体重、体脂肪、除脂肪体重などの測定や記録、日頃の食事内容の指導から、大会で結果を残すためにコンペ当日の栄養補給計画にも取り組んでいます。初めてボルダリングジャパンカップを観た時、栄養補給のタイミングが難しそうだと感じたんです。他のスポーツでは競技中に栄養補給することが多々あるのですが、ボルダリングは課題と課題の間が短いですし、みなさん常に壁に集中している。なので一度ヒアリングをし、我われの客観値を基にして彼らの感覚値と融合させていくような作業を行いました。そこからある程度の栄養補給計画を立てられれば、よりパフォーマンスにも結びついていくんじゃないかと。大会後にはフィードバックをもらいます。これだとお腹空きましたねとか、少し重過ぎましたねとか。2人はそういう感覚をきちんと伝えてくれるので、それをどう活かしてさらに良い栄養補給計画を作っていけるか、よく会話をしながら進めています」
コミュニケーションが大切なのですね。
「本人のフィードバックがすべての始まりというか。客観的な知識を持っている中で、選手がその時どう感じたかや、それがどう変わっていったかを大事にしたいですね。やはり人それぞれ違うので。ミーティングも長い時は2時間くらいやる場合もあります。出てくるニーズのレベルが高いので、やりがいも感じますね」
様々な競技に関わられている清野さんから見た、クライミングの特徴とは?
「他のスポーツと比べて、力を入れ続けている時間が非常に長い。体に常に力みが加わっている状態なんですね。局所的にかかる負荷は相当なもので、激しいたんぱく質分解が起こっているはず。栄養学の観点から見たら、いかにその分解を抑えられるかが重要だと感じています」
そのためにはどのような栄養補給を?
「登る前に糖質をしっかり摂ってエネルギーで満たされた状態にしつつ、競技中はたんぱく質分解を抑えるために合間に少しでもアミノ酸を摂取した方が良いと思います。凝縮されているジェル状のものなどがオススメです。そうすることで、最後までエネルギーが持続する可能性を高められるはず。終わってからは、なるべく早くホエイプロテインや乳製品でたんぱく質をしっかり摂取する。エネルギー回復のためにはもちろん糖質も欠かせません」
この仕事の難しさとは何ですか?
「栄養って目に見えないものなので、本当に良い影響がでているかどうかがわかりにくいんですよね。変化が見えやすいように血液や尿検査の結果などを追っていますが、それでも重要性に気づいてもらうのはすごく難しい。もう一つ、今はネットなどで情報が氾濫しているので誤解を招いてしまうことがある。きちんと理解してもらえるように我われが伝えて、選手側も情報リテラシーを高めていってほしいと考えています」
喜びを感じる瞬間は?
「選手が目標を達成できた時はもちろんですが、一番は選手が納得して取り組みできていることですね。なぜこの取り組みをしているんだろうという、プロセスを疎かにしたくないんです。負けたとしても、このプロセスは間違ってなかったなって思えてもらえていたかどうか。その上で結果が伴うことが理想ですね」
今後の目標を教えてください。
「常に自分も実践者でありたいです。私はウエイトリフティングやトライアスロンをやっているのですが、自分もトレーニングしながら栄養補給を考えて実践していかないとアスリートの感覚値がわからない。それでいて知識もアップデートし続けていかないと、たぶん対応できないなって。それが選手と向き合う上での礼儀だと感じていて、大事にしている部分です。選手と対峙する以上はやり続けたいですね」
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インタビュー・文・写真 編集部
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