FEATURE 42

裏方プロフェッショナル #008

山本充男(合同会社東京粉末 代表社員)

チョーク作りもコミュニケーションが大事

これが私のクライミング道。舞台裏で“壁”と向き合うプロに迫ったインタビュー連載。第8回は、トップクライマーに愛用者も多い日本を代表するチョークメーカー『東京粉末』の創設者である山本氏に話を聞いた。

※本記事の内容は2018年9月発行『CLIMBERS #009』掲載当時のものです。
 
 
チョーク作りを始めたのは?
「クライミングを始めた年あたりから作っていました。使っていたチョークの質がいきなり悪くなったことがきっかけですね。当時は種類も少なくて選択肢がなく、買いに行くのも大変だし、じゃあ材料を手に入れて自分でやってみるかと。それで(原材料である)炭酸マグネシウムのサンプルを取り寄せてみたりして」

我流で始められたのですね。
「それが楽しかったんです。何も知らないことを掘り下げて勉強していくってプロセスが好きなのかなぁ。すべては『好奇心』ですね」

山本さんは「クライミングジム・マーブー」(東京都)の創設者としても知られ、昨年までオーナーを務められていました。
「クライミングを始めて2年ほど経った2007年頃ですね。今のようにジムがなく、WEBで調べても見つからないような時代で、新しいことをやれる余地があると感じて始めました」

そこから『東京粉末』を立ち上げ、チョーク販売をするようになった経緯は?
「最初はマーブーでお客さんに売っていたんです。そしたら他のジムから『ウチでも売りたい』と言われるようになって。人のジムで売るのに、自分のジムの名前を付けるわけにはいかないですよね。それで偶然いた上野駅のお土産ストリートで大量の『東京○○』という商品を見かけて、きっと東京を付ければ売れるんだなって(笑)。チョークでやっていくとは思っていなかったので、軽い気持ちで付けたんです」

今や取扱店は約250店舗。ここまで拡がったのもジム同士の繋がりからでしょうか?
「それが一番ですね。扱ってくれるジムが『これいいよ』って他のジムに薦めてくれることでジワジワと。僕はあまりSNSが好きじゃないんです。ちゃんと自分で登ってるジムスタッフの人たちが、これがなぜ良いかというのを理解して売ってくれるのが一番いいなって」

だから個人への直接販売はされない?
「お客さんがショップに行けば『これどうなんですかね?』ってコミュニケーションが生まれる。そのスタッフやユーザーと僕らも展示会やイベントで会話する。そうすると、いろんな情報が行ったり来たりしますよね。そういうのが好きなんです。それに僕らが直接ユーザーに売り始めたら、今まで助けてくれた方々をないがしろにしてしまう。直販するぐらいなら、倒産する。全社員でその意識共有はしていますね」

チョーク作りの楽しさとは?
「今やってることが全然違うアイディアと結びつく瞬間でしょうか。苦悩してテストして失敗してを繰り返し、『もしかして?』と違う要素を合わせたら、『やっぱりそうだ!』って思い通りのチョークができ上がる時が来るんです。人とのコミュニケーションで生まれる新しい発見が好きなのと同じ感覚かもしれません」

反対に難しさは?
「変動要素が多過ぎること。同じような天気や気温の日であっても、岩の持つ水分量や湿度は違う。ジムによっても環境は違いますよね。それに登る人の状態も常に変化しますし」

 

多くの環境に対応する『BLACK』

 

そんなに変動要素がある中で、一定のクオリティの商品を作り続けるのは大変ですね。
「ほぼ不可能です。だから、それぞれの場面に合った様々な製品を作っています。ただ、その一つである『BLACK』は、ほとんどのコンディションである程度安定したパフォーマンスが出せると思いますよ。チョークはシューズと同じように、シチュエーションや自分の技術に合わせて選択することで、得られるパフォーマンスが本当に変わってくる。この探求の楽しさを少しでも、一歩先にいきたいと思っている人に知ってもらえたらいいですね」

CREDITS

インタビュー・文・写真 編集部

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