FEATURE 33

裏方プロフェッショナル #006

安田雅輝(有限会社ホッチホールド UNDER BLUE HOLD 担当)

モノ作りは、命を削るくらいの気持ちで

これが私のクライミング道。舞台裏で“壁”と向き合うプロに迫ったインタビュー連載。第6回は、観る人を魅了するインパクト大のハリボテが国際大会でも使用されるなど、日本が世界に誇るホールドブランド「UNDER BLUE HOLD」の安田氏に話を聞いた。

※本記事の内容は2018年3月発行『CLIMBERS #007』掲載当時のものです。
 
 
なぜホールド作りを始めたのですか?
「30歳くらいでクライミングを始めた頃はジムがあまりなかったので、友人と小さなプライベートウォールを作ったんです。でもホールドを買うお金がなくて、『作れるんじゃないか?』って単純に思ったのがきっかけですね。いつしか自分が作ったものがどれほどのものか、無料でジムに付けてもらったんですけど、手で持てればいいんじゃないの?ってことしか頭になかったから、やっぱり評価されなくて。それが悔しくて、のめり込んでいった感じです」

 

国内最高峰、ボルダリングジャパンカップで藤井快が男子史上初2度目の大会制覇を決めた決勝課題にもUNDER BLUE HOLDが使用された。

 

元は配管工だったと伺いますが、本職がホールド制作になったのは?
「10年ほど前、小遣い稼ぎでヤフオクに出してみたんですけど、今ほど自作を売っている人がいなかったので、すぐ売れるんですよ。これ、いけるんじゃないかって(笑)。で、友人から本業を辞めたら何か変わるんじゃないかと言われて、じゃあ一人でやってみようかなと」

その後フリーランスで活動され、昨年から有限会社ホッチホールドに所属されたと。
「仕入れから納品まですべて一人で行うのは物凄く大変でした。縁あって今の会社にホールドの生産を頼むとなった時に、入社しちゃった方がいろいろ楽になるんじゃないかなって。社長の堀地さんも元々シェイパーで理解がある人で、けっこう自由にやらせてもらってます」

今の仕事内容を教えてください。
「ハリボテ(壁から出っ張っている大ぶりなホールド)制作がメインで、全工程をすべて一人でやっているのはフリーの時から変わっていません。それと合間にホールドのシェイプ(素材を削って作る原型)をしています」

UNDER BLUE HOLDの強みとは?
「ハリボテに関しては全工程が国内で回っているので、すぐ対応できる。あとはオーダーメイドで作れることですね。また自分で納品に行くのですが、やっぱり顔を合わせて話すのは大事で、なるべく足を運ぶようにしています」

常に心がけていることは何ですか?
「大袈裟ですけど、命を削るくらいのつもりでモノは作っていかないと。お金を払ってくれる人に失礼なので」

この仕事の難しさは?
「ないものを生み出すツラさですかね。ずっとそればっかりになっちゃうんです、生活が。シェイプって、今時間あるからやろうっていってもできなくて。本能的に感じてやり出すと、手が勝手に動いて形になっていく。考えてやると、あまりいいものはできないんです」

この仕事の魅力は?
「やっぱり購入された方からすごく良かったって連絡があると嬉しいですね。それと、自分の役割にここ何年かで気づいたというか」

役割?
「40歳になった頃にW杯を日本で観戦した時、メダルを渡す女の子の着付けの先生がたまたま観客席のそばにいたんです。地元のボランティアの方だと思うんですけど、言ってしまえば裏方の裏方ですよね。でも、すごくいい顔をしていたんです。それを見て、感動して。役割は違えど、その人にとってのW杯じゃないですか。何かの歯車の一つでいいから、その場に関われて、選手が輝く。あ、こういうことなんだ、と思って。今でも強く覚えていますね」

 

クライミングジム・マーブー裏にある作業場。ここから極上の作品が生まれていく。

 

それから制作への想いもより深まったと。
「はい。僕の場合は、初めてジムに来た人がウチの変わったハリボテを見て『何あれ? 触ってみたい』と思ってくれたらいいなって。それをきっかけにクライミングを好きになる、そんな手助けをすることが役割なのかなと感じるようになりましたね。『えっ、あんなの持てるの?』とか、好奇心が湧くようなホールドをこれからも作っていきたいと思います」

CREDITS

インタビュー・文・写真 編集部 / 撮影協力 クライミングジム・マーブー

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