FEATURE 30
独占インタビュー
世界を翔けるロッククライマーが語る外岩の「すすめ」
岩の上に立った時の爽快感をまず一度、味わってほしいです
いつか外岩にチャレンジしたい。普段インドアでクライミングを楽しみながら、そんな目標を立てている方も多いことだろう。今回、外岩の魅力を語ってくれたのは、昨年アメリカのグレードv16課題「Creature from the Black Lagoon」を完登するなど、いま世界が注目する若手クライマー、一宮大介氏だ。その自由な発想、唯一無二の存在を目指す姿勢に共感するアウトドアブランド『MOUNTAIN HARDWEAR』の協力を得て、愛知・豊田の岩場へ向かう一宮氏に同行した。
※本記事の内容は2018年3月発行『CLIMBERS #007』掲載当時のものです(インタビュー収録日:2018年2月14日)。
“コンペに出てる場合じゃない” 岩場に挑む姿から受けた衝撃
10代から国内外のコンペに出場し、2015年には日本代表にも選出された一宮さんですが、その後なぜ、外岩中心の活動へとシフトされていったのですか?
「僕が憧れるクライマーというのは外岩で強い人たちなんです。もちろんコンペシーンで活躍する選手も凄いんですけど、例えばアレックス・メゴス(ドイツ)やダニエル・ウッズ(アメリカ)、アダム・オンドラ(チェコ)が岩場に挑む姿から受けた衝撃の方がデカくて。“こんな傾斜登れるの!?”とか“あんなホールド持てるの!?”とか。それで“コンペに出てる場合じゃない”って思いが次第に強くなっていったんです」
そもそも、外岩クライミングとの出会いは?
「高校で山岳部に入り、1年生の時に大分県の本匠にあるクライミングエリアへ行ったのが始まりでした。最初の頃は“前できなかったことが次はできるかもしれない”という感覚が楽しかった。指はズタボロでしたけど、“なんでこんな楽しいんだろう?”って。不思議な感覚でしたね」
いつ頃から岩場へ頻繁に通うようになったのですか?
「大学進学を機に関西に出てからです。冬場は毎週のように通ってましたね。僕は外岩に行き始めてから、クライミングの奥深さを感じるようになりました。ジムでは絶対に出会わないホールドがたくさん存在するし、足の置き方もジムと岩場とでは全然違う。クライミングはパワフルなスポーツというイメージがありますが、実はとっても繊細なところが好きなんです」
2017年に退職されるまでクライミングジムに勤務されていたそうですね。「ジムで働きながらクライミングを続ける」という選択もあったと思いますが。
「それを自分のクライミング人生の終着点にしたくなかったんです。それに、課題を登れない時の言い訳を作りたくなかった。“ここで終わりたくない”という気持ちが強かったですね」
これまで数々の高難度課題を攻略されてきましたが、最も印象に残っているのは?
「2017年に登ったコロラド(アメリカ)の『Jade』ですね。現在グレードv14のこの課題は、1回目のコロラドツアー時に失敗していたんですが、2回目でなんとか攻略できました。『Jade』は課題の内容も、岩のカッコよさも五つ星。何より去年一番頑張った課題でした」
同じツアー中に完登したv16の「Creature from the Black Lagoon」よりも?
「クライミングはグレードじゃないって言いますけど、まさにそれを痛感しましたね。また、海外に出てみたことで『ボルダーとはこういうもの』という固定観念が崩されて、自分が今までやってきたクライミングがいかに狭いものだったかを感じました」
『岩の上に立った時の気持ちよさ』がすごく大きい
ロッククライミングの魅力とは? まだ挑戦したことがないクライマーに向けて、伝えてもらえますか?
「まずはロケーション。課題は一つ一つ、世界中でそこにしかなくて同じものが存在しないんです。だから僕の場合は、『Jade』に登るためにコロラドへ行く。遠いし、大変だけど、やっぱり行きたい。そういうモチベーションを与えてくれるのが外岩だと思います。ジムの課題も同じかもしれませんが、ある程度の経験者ならば、一見してどんなルートかだいたい想像がつきますよね。外岩はそれがわかりにくい。『気づき』の大切さを身に染みて感じるし、何より自由なんですね」
ビギナーはどんな岩、どんな課題から始めると楽しめるでしょうか?
「岩場に通っている人に話を聞くのがいいと思います。クライマーは親切な人が多いですから、きっとジムでの登りを見て、初めに挑戦するのにちょうどいい課題を選んでくれるはずです。で、興味が湧いてきたら、YouTubeなどに多くの動画もアップされているので、自分で面白そうな課題を見つけていったらいいんじゃないかと」
「外岩は怖い」と感じている方もまだ多いかもしれません。
「確かにいろいろなリスクはありますが、それ以上に『岩の上に立った時の気持ちよさ』がすごく大きいんです。ケガの心配をされる方も多いでしょうけど、岩場では危険を回避する人間の本能が強くなりますし、危ないと感じた時は無理せず降りることで僕たちも楽しんでいます。最初は気候のいい春や秋がオススメ。まずは一度、行ってみてほしいですね」
今日も身に着けているMOUNTAIN HARDWEARの印象は?
「様々な気候の中で登るんですけど、ウェアの機能性、使いやすさは抜群です。すべてのアイテムがクライマーのことを考えて作られていて、ボルダリングだけじゃなくリード、ビッグウォール、アルパインなど、あらゆるクライミングシーンで活躍すると思います。それと、カッコいいのも大事。周りのクライマーから『いいね!』って言われるような、絵になる服を着たいですから」
60歳になっても登っていたい。一生クライミングをして生きていくつもりです
2018年の計画を教えてください。
「10、11月に再びコロラドへ行って『Hypnotized Minds』に挑戦するつもりです。僕にとっては2本目のv16。グレードが絶対的に確立されている課題なので、必ず登りたいです」
コロラド以外で行ってみたい岩場は?
「アメリカだけでもフエコ、ビショップ、レッドロックス、ヨセミテ、ジョシュアツリー……めちゃくちゃありますよ。あと、友人がいるノースカロライナにも。彼が日本に来た時、恵那(岐阜)や豊田(愛知)に連れて行ったら『今度こっちを案内するよ』って言ってくれたんで。そんな簡単には行けないけど(笑)。まずアメリカを制覇して、機会があればロックランズ(南アフリカ)やフランケンユーラ(ドイツ)にも挑戦したいですね」
尊敬しているクライマーは?
「濱田(健介)さんです。僕にとって唯一『師匠』と呼べる方。20歳前後で出会って、カナダのスコーミッシュ遠征にも誘ってもらいました。ルートセットも教わりましたし、技術はもちろん、クライミングに対する価値観のようなものも濱田さんから学んだ気がします」
今後、世界最難グレードv17の「Burden of Dreams」(フィンランド)に挑戦する意思はありますか?
「ナーレ(・フッカタイバル)が4年の歳月をかけて攻略した課題ですからね。今の僕じゃまだ早い。もっともっと努力をして、5年以内にはチャレンジしたいと思います」
将来の夢は?
「誰もやったことがないことをやり遂げたいですね。そして、60歳になっても登っていたい。一生クライミングをして生きていくつもりです」
MOUNTAIN HARDWEAR CHALK COLLECTION
クライマーを高次元でサポートするマウンテンハードウェアの最新ギア
Multi Pitch 25 Pack/マルチピッチ 25 パック
840デニールのバリスティックナイロンと600デニールのタープ素材を採用した頑丈なクライミング用パック。収納可能なクライミングシューズ用のメッシュポケットやギアループを装備。ハーネスを収納することでホールバッグとしても使用できる。
Lone Mountain Stretch Pant 2/ローンマウンテンストレッチパンツ2
クライミングから登山、軽トレッキングまで対応する軽量ストレッチ撥水パンツ。フロントロングファスナー採用によりウエストハーネス着用時にもアクセス可能だ。後ろポケットパッカブル仕様で携帯性が高く、すべてのポケットがファスナー付き。
After Six Chalk Bucket/アフターシックスチョークバケット
クライミングショップ「カラファテ」の店長、中根穂高氏と共同開発した置き型バケット。特殊PEコーティング素材で耐久性に優れる。タッチパネル対応のクリアポケットはスマートフォンを入れてムーブの自撮りが可能。ブラシポケットは3タイプの太さに対応。
MOUNTAIN HARDWEAR(マウンテンハードウェア)
1993年、常に挑戦し続け何事も達成可能と信じる数名のメンバーによって、アメリカ・カリフォルニアで設立。以来「マウンテン」に焦点を合わせ、限界に挑む人々に対して、最先端技術を取り入れた製品を提供している。
MOUNTAIN HARDWEAR 公式サイト
CREDITS
インタビュー・文 編集部 /
写真 永峰拓也
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PROFILE
一宮大介 (いちみや・だいすけ)
1993年、大分県生まれ。2009年にクライミングを始め、外岩とコンペの双方で結果を残す。近年は外岩にフォーカスし、17年は宮崎・比叡山の「ホライゾン」(v15)を小山田大、白石阿島に次いで完登。同9月にはアメリカ・コロラドの「Creature from the Black Lagoon」を登頂し、v16課題を初めて完登したアジア人としてピオレドールアジアにノミネートされた。 MOUNTAIN HARDWEAR 公式サイト