FEATURE 27
話題の課題閲覧ツール!開発者インタビュー
OnlineObservationって何だ?
目指すは課題のウィキペディア
2017年10月のサイト正式オープン以来、国内外で話題の課題閲覧ツールをご存知だろうか。OnlineObservation(オンライン・オブザベーション)――3D化された課題の写真や動画をPC・スマホで自由に“オブザベ”でき、かつ今までになかったライブラリとして誰でも共有できるとともに、自由に投稿も可能な新時代のサービスだ。すでにADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017などコンペでも導入されたシステムについて、その産みの親、筒井氏に開発への想いを伺った。
※本記事の内容は2017年12月発行『CLIMBERS #006』掲載当時のものです。
最初に、筒井さん自身についてお聞きしたいと思います。クライミングとの出会いは?
「体を動かす趣味を見つけたくて、友人にジムへ連れて行ってもらったらドハマりしまして。そこからは週2~3のペースで続け、もうすぐ6年になりますね。僕は約12年間、広告用途の映像照明を中心としたインタラクティブなシステム開発をしていて、4年前にアーケ株式会社を設立しました」
好きが高じて仕事にしてしまった?
「もともとこんなにハマってるんだったらいずれ仕事にするだろうなと思っていたところで、東京五輪の種目採用が決まり、この波に乗るしかない!と。僕は近年のクライミング界を見ていて、課題とムーブのコンテンツ力がすごく高いなというのと、SNSで自分のムーブ動画を上げる人が多いなというのを感じていました。そこで、この2つを組み合わせたサービスを作れないかと様々なリサーチをしまして。その中で、高いクオリティでできそうだと思ったのが3Dスキャンでしたね。2017年の2月には方向性が決まり、駆け足で月内にサイトを立ち上げました」
オンライン・オブザベーションの特徴を挙げるならば?
「スマホでもPCでも、ネット上で自由な視点からオブザベーションができることです」
4つの人たちのためのサービスだと謳われていますよね。まず1つが、ルートセッターのための課題ライブラリとして。
「せっかく良質な課題が作られても、1カ月で消費されておしまいなのはもったいないと。面白い課題こそ、ネット上に記録してみんなの財産にしていこうよ、という想いがあったんです。実際にどうやって登られたのか、ムーブ動画を閲覧できるのですが、第一には課題を『アーカイブしていくこと』を意識していますね。今って課題の質が高いジムに人が集まるような感じがあると思うんですけど、誰もが簡単にいい課題を作れるわけじゃないですよね。まだ経験が浅いセッターがプロの課題を手本にしたいとか、大会で使われた動きをウチのジムでも再現してみようとか。そういうルートセットの参考として使っていただけると嬉しいです」
大会主催者のため、というのは?
「観戦補助ツールですね。わかりやすい使われ方としては、大会の際に2階席など離れた位置でしか課題が見られない時に手元のスマホでオブザベができる。中継視聴でなかなか映らない課題をじっくり見たい場合にも有用です」
3つ目がクライミングジムのため。
「ホールド替えをPRするためのメディアとして使ってほしいですね。リニューアルオープンとかアニバーサリーコンペとか、そうした節目節目でオンライン・オブザベーションが使われて集客に貢献できればいいなと思います」
そして最後は、上達を目指すすべてのクライマーに向けて。
「身長や両手を広げた時のリーチのような数字も記入した上でアーカイブしているので、自分と同じ身長の人が課題をどう攻略しているのか、動画で見て自分のムーブの引き出しを増やす、といった使われ方を想定しています」
10月にはサイトがリニューアルされ、正式オープンとなりました。変わった点は?
「まずユーザーからの投稿サービスを追加しました。ユーザー登録することで、自分で撮影した写真や動画を投稿できます。投稿は簡単で、スマホで課題を4~10枚くらい、壁を回り込むような形で撮ればOK。投稿後、こちらで3Dデータに変換し、サイト上で閲覧できるようにします(投稿方法の詳細は公式サイトで!)。もう1つは逆引き検索の実装です。ジム、グレード、ホールド、ムーブ、セッターの5つの要素を組み合わせることで、その複合条件にヒットする課題が一覧で出てきます。例えば、3級の課題を作らなければならないけれどアイディアが湧かない……と悩んだ時に参考に使ってほしいんです。それと、インスタのようにお気に入り登録を使って自分だけの課題コレクションを作れるのも役立つと思います」
正式オープン後の感触はいかがですか?
「ゆっくりとですが確実に、いいコンテンツが集まってきていますね。日本のみならず、海外からも反響が届いています。『面白いから俺のホームジムの課題を紹介したい』って言ってくれたり、W杯のメダリストから投稿があったり」
海外からも評価され始めていると。
「そうですね。ジムの作りもそうですけど、課題にもお国柄ってすごく表れるんですよ。日本は狭い立地事情などもあって少ない手数でムーブを詰め込むものが多かったりしますが、例えばアメリカには高難度のものでも何も考えずに思い切り手を動かしましょう!って課題があったり。そんな違いの面白さも発信していきたいですね」
筒井さんの目標を教えてください。
「大きな大会のアーカイブを担うことは目標の一つですね。国内ならジャパンカップ、海外ならW杯。クライマーやセッターが目標とする頂点に位置する大会をアーカイブすることで、その年どしの流行りを含め、良質な課題がストックされていくと思うんです。あとは、やはりオリンピック。ここを目指すことで、競技者のためだけの舞台じゃないんだってことを伝えていきたい。今サイト上でも求人を出していますが、クライミングの仕事ってジムの接客やルートセットだけではなく、メディアや大会運営もあるじゃないですか。みんなも一緒にオリンピックを楽しんで、参加しようって想いがあります」
今後、オンライン・オブザベーションをどのような存在にしていきたいですか?
「かっこよく言うと、課題のウィキペディアにしたいんですよね。公平な目線でコンテンツを紹介していきたい。収益をあげるとしても、その中身が偏っちゃうと辞書としては不十分じゃないですか。みんなが投稿できるし、編集できるし、参考にできる。“つくれぽ”のような、『このホールド使って作ってみたよ。このムーブかっこよくない?』みたいな感じでどんどんストックが増えていけばいいですね」
OnlineObseravation(オンライン・オブザベーション)
3D化された課題の写真や動画をPC・スマホで自由に“オブザベ”でき、かつ今までになかったライブラリとして誰でも共有、自由に投稿も可能な新時代のサービス。クライマーが閲覧することはもちろん、ルートセッターの課題ライブラリとして、クライミングジムのPR効果を狙ったメディアとしても活用されている。
OnlineObseravation 公式サイト
CREDITS
取材・文 編集部 /
写真 森口鉄郎
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PROFILE
筒井真佐人 (つつい・まさと)
1985年生まれ。オンライン・オブザベーションを運営するアーケ株式会社の代表。インタラクティブ映像演出、マルチモニタ映像演出、LED照明演出などのシステム設計・開発を中心に、広告イベント・商業施設・CM・舞台など様々な場所で活躍。黎明期より最前線で活動してきた経験を活かし、コンサルティング・アドバイザー業務なども行う(http://arque.jp)