FEATURE 24

裏方プロフェッショナル #004

上倉享(日本スポーツクライミングカウンシル運営・クライミング大会中継エンジニア)

大会に出たい人が増えることがやりがいです

これが私のクライミング道。舞台裏で“壁”と向き合うプロに迫ったインタビュー連載。第4回は、今やコンペでは当たり前となったリザルト表示システムを開発・運営し、日本山岳・スポーツクライミング協会とも協働して競技の振興を支える上倉氏を紹介する。

※本記事の内容は2017年9月発行『CLIMBERS #005』掲載当時のものです。
 
 
クライミング歴は?

「始めたのは社会人になってからで12年くらいです。当初は趣味でクライミングを楽しんでいたのですが、3年ほど前にカメラマンとしてインターネット中継のお手伝いをしまして、そこで現在一緒に活動している藤枝隆介さんと出会いました。そこからいろいろとお手伝いをするようになったのが、今の活動の始まりですね」

なぜ、リザルトシステムの開発・運営を始めることになったのでしょうか?

「2015年のボルダリングジャパンカップ(深谷)でお手伝いした時に知ったのですが、当時の大会は会場にいる観客も中継を見ている人も、今誰が勝っているのかわからなかったんです。野球で言えば電光掲示板のスコアやストライクカウントがない状態で、ルール上MCの方も状況を説明できませんから、熱心に観戦している玄人だけが状況を把握している状況です。これは何とかしないと、と思いました。

 
 もともとWEBのシステム開発が本業でしたので、リザルトシステムを開発するノウハウは持っていました。そこで、まずはジム等で開催されるローカルコンペで実績を積んでいきました。ジャッジシステム(審判がリアルタイムでリザルトを端末に打ち込む)を開発し、中継の画面にリザルトや選手名、残り時間が表示されるようになり、大会中にリザルトが携帯で見られるようになって。リザルトが表示されるスクリーンも会場内に置かれるようになりました。

 
 今では協会主催の大会でもシステムを一部導入していただいて、オフィシャルのみなさまの協力により、会場のスクリーンや中継の画面に公式リザルトが流せるようになっています」

データベースに関しては?

「日本スポーツクライミングカウンシルのWEBサイト(※)では、主催者側が公開している大会結果をデータベースにインポートする仕組みを作っています。選手データベースに登録されるのは、協会主催の国内大会に出た選手とIFSCのW杯や選手権に出た選手で、現在2700件の選手データと1万7000件のリザルトデータが蓄積されています」
※編注:2017年9月29日に公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会の競技会・選手情報サイトとして移行・統合が行われました。

今後やりたいことはありますか?

「例えば、ある選手の『第○課題』という部分をクリックすると、その完登シーンを見られるような情報と映像のリンクは実現させたいですね。他にも、中継時に『この課題を何トライ以内で登れば優勝』といったグラフィックを表示するとか。他にも細かいものなどいろいろありますが、ちょっと人手が足りてないですね」

この仕事の難しさは?

「既存の大会運営がある中で、いかに自分たちが仕事をやらせてもらえるかという、導入の過程は難しいですね。我々はセッターでもジャッジでもないですし、まず自分たちがやろうとしていることの重要性を感じてもらう必要があります。大会の運営チームも毎回同じではありませんから、説明も重要です。テクノロジーと言いつつ難しい部分はアナログです。リードの大会で、選手が一手一手登るたびにジャッジの方がタブレットで高度を入力してくださるようになったのも、信頼関係を少しずつ重ねていったからだと思います」

 

嬉しかったことは?

「大会に出場したいという人が増えることですね。競技人口が増えないと競技が発展していきませんから、あの場に立ちたいと思ってもらえるような舞台を用意していければと思います」

今後のクライミングシーンをどのように盛 り上げていきたいですか?

「具体的にはリードの日本選手権をもっと盛り上げたいです。今ボルダリングに人気が集中していますが、クライマーの中でリードを下に見ている人はいないと思うんです。なので、このもう一つの国内最高峰の大会を予選会が必要になるくらい魅力あるものにしたい。自分の貢献できる分野から、業界全体でリードを盛り上げていくために尽力したいですね」

CREDITS

インタビュー・文・写真 編集部

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