FEATURE 149
ルートセッター4人に聞く
海外混合チームでつくるCJC2022
11月12、13日に愛媛県西条市で開催される今年のコンバインドジャパンカップ(以下CJC)。10月に行われたクライミングW杯盛岡大会の2種目複合ルールに準拠して行われる今大会には、国内公式戦としては珍しく海外のルートセッター2人が参加する。リード、ボルダリングそれぞれのチーフセッターを務める岡野寛氏、平嶋元氏に話を聞くとともに、海外セッターのセルジオ・ベルダスコ氏、ピエール・ブロワイエ氏にもコメントを寄せてもらった。
※本記事は2022年11月12、13日に開催される「第5回コンバインドジャパンカップ」の大会公式プログラム掲載コンテンツに未収録分を追加、再構成したものです。
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チーフルートセッター(リード担当)
岡野 寛(おかの・ひろし)
1974年6月24日生まれ、香川県出身
チーフルートセッター(ボルダリング担当)
平嶋 元(ひらしま・げん)
1981年2月17日生まれ、福岡県出身
ルートセッター(リード担当)
セルジオ・ベルダスコ
1996年1月17日生まれ、スペイン出身
ルートセッター(ボルダリング担当)
ピエール・ブロワイエ
1993年9月24日生まれ、フランス出身
2種目複合で変わるルートセット
CJCの海外セッター参加は「お互いの良さを吸収できれば」
2024年パリ五輪は、東京五輪でのスピード、ボルダリング、リードの「3種目複合」からスピードが独立します。今大会でも実施される「2種目複合」の印象から教えてください。
岡野 スピードが分かれたのはそれぞれの選手にとって良かったと思います。3種目複合では各種目の順位をかけ算するため競技中に総合順位が目まぐるしく変わっていましたが、ボルダリングとリードのポイントを足し算する2種目複合はそうなることもないですし、セッター間でも「東京五輪よりは良いよね」という意見が出ています。ニューフォーマットなので、セッターにとってもチャレンジする楽しさがありますね。
平嶋 リードもしくはボルダリングをメインとする選手にとって、スピードという種目は手を付けていなかったものだと思います。彼らにとってはスピードが勝負の分かれ目になるというプレッシャーがあったと思うんですけど、2種目複合ではそれがなくなった分、よりフォーカスできるというか、好パフォーマンスに繋がるのではないかなと思います。
単種目の大会と2種目複合の大会とでセット内容に変化はありますか? それぞれ今大会で担当される種目を中心に教えてください。
岡野 変化はありますね。リードは完登が出にくくしています。リードで完登すると満点の100ポイントですが、ボルダリングの100ポイントは4課題すべてを1回のアテンプトで登り切らなければならず、それはなかなか起きにくいことですから公平性を考慮しています。あとはできるだけ同着を出さないように意識していますね。
2種目複合で行われた10月のW杯盛岡大会では、予選、準決勝ともに女子の森秋彩選手がリードを唯一攻略し、決勝も完登目前まで迫りました。あれは想定外でしたか?(笑)
岡野 想定外でした(笑)。決勝も相当難しくしたはずなんですが……。森選手のパフォーマンスがすご過ぎましたね。
ボルダリングを担当する平嶋さんはいかがですか?
平嶋 明らかに違いますね。いかに完登数のベースを設定して、そこからどう選手にプレッシャーをかけて決着を付けさせていくかがポイントになると思っています。
今大会には海外から2人のルートセッターが参加します。
岡野 各国でルートセッターを派遣しあう「ルートセッターチェンジシステム」が活用されてセルジオ、ピエの2人が参加することになりました。やはり国が違うとセットの仕方や考え方が違ってくるので、一緒にチームを組むことでセットの幅が広がるはずです。2人は20代と若く、セルジオはすでに国際資格を持っているなど今後の国際大会で活躍していく人材です。彼らと仕事をすることで日本のルートセッターの良い経験となり、ゆくゆくは選手のレベルアップにも繋がるのではと期待しています。
平嶋 自ら高難度課題を登れて、登り手の目線も強いのが日本のセッターの特徴なのですが、海外のセッターは自分が登れることはもちろん、若い時から見る目を養っていて、より課題を客観視できる人が多いんです。加えてセッターをチームとしてまとめていくコミュニケーション能力も優れています。そういった姿を日本のセッターが感じて、お互いの良さを吸収していけるチャンスになればいいですね。
2人はどのような人物ですか?
平嶋 2人とも今年のW杯マイリンゲン大会で一緒にセットした経験があります。ピエは「こうしたい」という明確な意思があって、それを実現するため積極的にいろんな人にアドバイスを求めますね。すごく陽気で、ずっと鼻歌をしながら、踊りながら課題をつくっているような感じで(笑)。課題にも感情が表れるというか。セルジオはすごく真面目です。自分の課題のみならず他人の課題に対しても「どうしてそうしたの?」ってよく質問しますし、常に学びたいという姿勢があって、だから日本に来たかったのかな?と思っています。「何かすることない?」って、ずっと走り回っています(笑)。
最後に今大会の意気込みを教えてください。
岡野 リードに強い選手、ボルダリングに強い選手とそれぞれいますが、リード担当としてまずはリードに強い選手がパフォーマンスを発揮する姿を引き出せればと思っています。そこにボルダリングの選手も迫っていく。そういう展開になってくれると面白いですね。
平嶋 後に行われるリードのほうが、どうしても勝負どころのシーンなどで印象に残りやすいと思いますが、ボルダリングもみなさんの記憶に残るような展開に持っていきたいですね。各種目でしっかり選手のパフォーマンスが発揮されて、うまく結果に繋がるようにチャレンジしたいと思います。
海外セッターが挑むCJC
「日本のセットスタイルを学びたい」
日本の大会でセットすること、学びたいことについて。
セルジオ このような機会をいただけて大変光栄に思います。私はクライマーにとって良い経験となるよう最善を尽くしたいですし、日本のセットスタイルについても学びたいと思っています。日本の課題は非常に興味深いです。細かいところまで気を配っていて、欧州よりはるかに複雑です。フィジカル系の課題でさえ、全身を駆使しなければなりません。日本のセッターは常に異なるムーブを提案しますよね。
ピエール 誇りに思いますし、幸せです! 私のスキルを向上させるために、間違いなく重要なステップとなるでしょう。フランスではコーディネーションムーブや高速ムーブを「ジャパニーズスタイル」と呼んでいます。日本人セッターはフィジカル要素や負荷の少ないムーブで挑戦的な課題を好むイメージがありますが、彼らはこの点において私にインスピレーションを与えてくれています。いい挑戦になると思いますし、楽しみです。
日本と海外のルートセットの違いをどう感じていますか?
セルジオ 最大の違いは、クライマーとセッターが挑戦好きでそれを望んでおり、新しい動き、ハードなボルダー課題を求めているということです。
ピエール 日本には強いセッターと強いクライマーが多く存在していて、主な違いはおそらくそのレベルについてだと思います。また日本人セッターと何度か仕事をした経験がありますが、そのメソッドに触発されました。最初の基本設計により多くの時間を費やし、期待されるレベルに近づけるために必要な調整はごくわずかにしています。
今大会への意気込みをお願いします。
セルジオ とても興奮していますし、親切なコミュニティに歓迎されていると感じています。CJCは私にとってこの長いセッティングシーズンの最後を迎える大会となります。クレイジーかつチャレンジングな課題をセットし、素晴らしいセッティング体験で今シーズンを締めくくりたいです。
ピエール 選手たちが新フォーマットにどのように適応するのか、楽しみにしています。食べ物や習慣など日本の文化を発見し、それが日本のクライマーが強い理由であるかどうかを知る良い機会にもなるでしょう。これを実現させてくれたJMSCA、岡野さん、ゲン(平嶋元)に心から感謝します。
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CREDITS
取材・文 編集部 /
写真 窪田亮 /
協力 JMSCA
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