FEATURE 133
ボルダリングジャパンカップ2022開幕直前!
藤井快 パリに弾みをつける“V5”へ
ボルダリングジャパンカップ(BJC)で男子唯一の複数回優勝をマークし、前回大会でその記録を「4」に伸ばした藤井快。今年30歳を迎える現役世界王者は2年後に迫るパリ五輪へ弾みをつけるべく、今大会に挑む。
※本記事は『第17回ボルダリングジャパンカップ 大会公式プログラム』の掲載インタビューに未収録分を追加、再構成したものです。
優勝を狙ったのは1度きり
全力で自分に集中するだけ
まずは昨年大会についてお聞きします。決勝第1課題で左膝を痛めるアクシデントに見舞われながらも、最終的には全完登で4度目の頂点に輝きました。
「2021年は迎えたプロ転向1年目で、きちんと結果を追い求めていきたいと考えていた中で迎えたプロ初戦がBJCでした。実力はかなり拮抗していて紙一重の戦いでしたが、ケガしたことで逆に変なスイッチが入り1回1回のトライにキレが出たと言いますか。翌朝起きると膝よりも足首のほうが痛くて、決勝はアドレナリンが出てかなり集中できていたんだと思います」
藤井選手と前回男子表彰台に上がった楢崎智亜、緒方良行の3選手は、その後のW杯で表彰台独占を果たすなど日本男子勢を牽引しました。彼ら2人をどう見ていますか?
「練習している時には、登る力自体は僕より上だと思うことが多いです。智亜の得意なダイナミックな動きや、おがっち(緒方)の保持力やパワフルなムーブを見て『自分にはあんな動きできないな』とコンプレックスみたいなものを感じる時も正直あります。でも、彼らのおかげで『こういう動きは彼らをイメージしてやるといいな』と学べてもいるんです。僕にとって助かっている部分があるということは逆もあるのかなと思うので、互いに良い関係で戦えている感覚はありますね」
BJCは藤井選手にとってどのような大会ですか?
「その年の日本代表権が懸かっているので、自分の中では年々『選考大会』という位置付けが色濃くなってきています。その年最初の公式大会でもありますし、自分のコンディションはもちろん、各選手の様子を見て、今シーズンがどうなっていくのか思い描いていくような大会ですね」
男子で複数回優勝しているのは藤井選手のみです。この大会に勝つ秘訣みたいなものがあるんでしょうか?
「正直なところ、本気で狙ったのは3回目の優勝の時だけなんです。2016年に初優勝、その後連覇して18年を迎えましたが、3勝しておけば他の選手が4連覇することはさすがに簡単じゃないだろうから超えられない壁を作っておきたいと思って(笑)。17年のW杯シーズンが終わった後、11月頃から翌年2月のBJCに照準を合わせてトレーニングを重ねて臨みました。それ以外は良いパフォーマンスをしたら結果がついてきたという感じで、勝つための秘訣があるなら教えてほしいくらいです(笑)。BJCでは勝てていますけど、W杯では智亜のように安定して表彰台に乗れているわけではないので、オフシーズンのトレーニングの疲労が抜ける新年一発目の大会でたまたまうまくいくことが多いのかなと思います」
藤井選手は1月1日時点の世界ランキングで1位となり、10位以内の選手に与えられるIF枠を獲得。BJCの結果を待たずして今年のボルダリングW杯の出場権を得ることができました。逆に言えば“目標”の1つがなくなったわけですが、どのような想いで今大会に臨みますか?
「自分の良いパフォーマンスをしっかり引き出すことができるか確認したいです。いつも試合前は『今回こそ予選落ちするんじゃないか?』と思うくらい不安になるんですけど、課題をトライし始めると体が動いてくれて、自分の期待に応えてくれる。昨年はそうやって自分自身をコントロールできる感覚が多かったんです。他人の成績は自分でどうにかできるものではないので、全力で自分に集中するだけです」
あまり順位は気にせずいこうと。
「もちろん出場するからには優勝が目標ですし、全ラウンド1位でいきたいと思っています。特に準決勝は20番スタートが好きなので、予選1位通過は狙いたいですね」
BJCの準決勝は予選通過者の下位から競技が始まり、首位だった選手は最終20番手スタートとなりますね。
「20人が出場する準決勝で、(決勝進出の)上位6人に入るかどうかの結果待ちをしたくないんです(笑)。最後の競技者であれば、自分が第4課題を終えた時点で順位が確定するじゃないですか。一方で決勝の競技順にはあまりこだわりはないです。早ければ気が楽だし、中盤だと展開が読みやすくて最後だと自分次第。そういう感じでいかようにも気持ちを切り替えられます」
群雄割拠の日本男子
僕にとってはみんなが注目選手
今の仕上がり具合はいかがでしょうか?
「オフシーズンに取り組んできたことが少しずつ体の変化として表れていますが、それが昨年に比べて良い変化なのかどうかはやってみないとわからないので、不安と期待で半分半分という感じです」
フィジカルトレーニングに取り組んでいる様子をSNSにアップしていましたね。
「僕は走ったり跳んだりする運動的な要素の強い課題が苦手で筋力強化もしていますが、踏み込んだ時の切り返しや接地の仕方など、細かい運動学習的なところを意識してトレーニングしています」
体をうまく使えるようにしていると?
「そうですね。まだうまく動かせていない部分がありますし、癖で変なホールドの持ち方をしている時があるので、それを少しずつ直しています。目指すは“ニュートラルな体”です」
今大会をご覧になる方には、自分のどんなところに注目してほしいですか?
「僕は自分の登りに華があるクライマーだとは思っていません。『あのホールドをそんな体勢で止めちゃうの!?』とか『動きが速くてうまい!』と言われるより、淡々と登れたらいいなと思っています。無駄のない美しい登りというか。例えば、フィギュアスケートって見ていてすごく綺麗だと思うんですよ。特に羽生結弦選手は一瞬で競技が終わってしまうように感じます。彼の動きのように洗練された登りをしたいですね。他の選手に目がいっていたら僕はもう登り終えていて『あれ、もういないの?』と思わせられたらいいですね(笑)」
群雄割拠の日本男子。藤井選手から見て気になる選手はいますか?
「昨年の決勝メンバーもそうですし、若手選手たちもそう。僕にとってはみんなが注目選手ですね。今の時代はSNSで簡単に情報収集できるので、『こんな動きができるんだ。すごい……』といつも思います。『BJCまであと1カ月』なんて書かれた調子の良さそうな登りをしている動画を見ると、なんだか“マウント合戦”に負けている感じがしちゃって(笑)。僕も大会が近くなったら難しい課題を登る動画をアップして、マウントを取りにいこうかな(笑)」
2022年はどんな1年にしたいですか?
「ボルダリングでは昨年獲り切れなかったW杯年間ランキング1位を獲りたいです。リードではBJCの翌週に行われるリードジャパンカップ(LJC)で代表権を手にして、W杯で決勝に安定して残るような成績を残しつつ1度は表彰台に上がりたいですね。両種目で1ランク上の舞台に進めるような成長を遂げる年にしたいと思っています。パリ五輪の(ボルダリング、リードによる)2種目複合フォーマットで行われるアジア競技大会も9月にあるので、BJC、LJCで結果を残して出場したいですね(両大会の順位をかけて複合ポイントを算出し、そのポイントが低い2選手が代表に選出される)」
CREDITS
取材・文 編集部 /
写真 窪田亮 /
協力 JMSCA
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PROFILE
藤井快 (ふじい・こころ)
1992年11月30日生まれ、静岡県出身。TEAM au所属。2021年1月にプロ転向を果たすと、同月のBJCで大会男子最多4度目の戴冠。W杯ボルダリングでは全4戦で決勝に進出し緒方良行に次ぐ年間2位、世界選手権では初優勝を遂げた。22年初戦のBJC優勝を足がかりとし、競技人生の集大成に据える24年パリ五輪での金メダル獲得を目指す。(写真:永峰拓也)