FEATURE 104

今大会のスポーツマネージャー、羽鎌田直人に聞く

日本リード界の現状とLJCの見どころ


近年、ボルダリングとともにリードでも世界トップレベルの強さを誇る日本勢。3月26日~28日に開催される第34回リードジャパンカップ(以下、LJC)を前に、元リード日本代表選手で、今大会のスポーツマネージャー(競技責任者)を務める羽鎌田氏に国内のリード事情やLJCの注目点、コロナ禍における大会運営について聞いた。

※本記事は「第34回リードジャパンカップ」(2021年3月26日~28日開催)大会公式プログラムの掲載インタビューに未収録分を追加したものです。
 
 

“どれだけ高く登れたか”を競うリード

まずはじめに、今大会で初めてリードを観戦する方に向けて、どんな種目なのか教えていただけますか?

「リードは高さ12メートル以上の壁に設けられた1つの課題を、どの高さまで登ることができたか競う種目です。ボルダリングとは違って長い距離を登ります。そのため少しのミスで疲労が溜まり、落ちてしまうリスクに繋がっていくので、持久力が求められます。リードはいかに無駄を省いて綺麗に登っていくかが重要な種目とも言えますね」

順位はどのように決まるのでしょうか?

「手で掴むことを想定したホールドに、下から順に番号が振られています。どの番号のところまで保持したかによって、その選手のスコアが決まります。スコアの数字がより大きい選手がより高く登ったということになり、一番高く登った選手の優勝となります」

もしスコアが同じ場合はどのようにして優劣を判断するのでしょうか?

「同スコアの場合はカウントバックといって、1つ前のラウンドの順位が良い選手が上位となります。例えば決勝では準決勝、準決勝では予選に遡ります。それでも同順位の場合は、表彰台に係る場合のみ、登り始めからフォールまでのタイムが速い選手が上位となります」

 
 

“どこでクリップするか”も戦略

ボルダリングとの大きな違いに、ロープをクリップしながら登っていくことが挙げられますよね。

「リードの壁にはいたるところにクイックドローがぶら下がっています。選手は下から順番通りにロープをクリップしていく必要があり、順番を間違えてしまうと反則で競技終了となります。また、リードはゴールのホールドを掴んだだけでは完登になりません。最後のクイックドローにロープをクリップしたら完登となります」

順番さえ守れば、どのタイミングでクリップしてもいいのですか?

「どこでクリップするかは自由です。オブザベーションと言って登る前の下見の時間によくコースを観察し、クリップするポイントにアタリをつけておきます。リードにおいてどこでクリップするかは戦略の一つとなっています」

スコアにはよく「+」が付いていることがありますが、これはどういった意味なのでしょうか?

「ホールドを掴んでそのまま落ちた選手よりも、より先のホールドに進もうとした選手を上位にするためのルールです。例えば30の地点でただ落ちた選手と、30の地点から次のホールドへ行こうと手を伸ばして落ちた選手では『+』の差が生まれることになります。『+』が付くかどうかでメダルの色が変わるケースも珍しくないので、とても大事なポイントになります」

「+」が付く判断基準はどうなっているのでしょうか?

「一つは体の重心が次のホールドへ移動していること。そしてもう一つは次のホールドへ手が出ていること。この2点が認められれば『+』が付きます」

リードの魅力はどんなところにあると思いますか?

「他の種目よりも無駄のない登りが求められるので、より洗練されたクライミングを堪能できます。それからリードはボルダリングのように何度も登ることができません。1度落ちてしまったらそこで競技終了となるので、“1トライの緊張感”は観ている側にも伝わり、手に汗握る登りを観てもらえると思います」

 
 

日本がリードで活躍できるワケ

羽鎌田さんは現役時代、各年代で主にリードの日本代表選手として活躍されてきました。日本はボルダリングで世界トップレベルを誇りますが、リードのレベルはどのくらいなのでしょうか?

「リードに関しては確かに練習環境で劣っている部分があると思いますが、それでも若い選手がW杯の決勝に残ったり、2019年は西田秀聖選手と清水裕登選手が優勝しました。限られた環境の中で日本は健闘していると思いますね」

2019年は日本が6年ぶりに国別ランキングで1位となりましたが、近年日本が活躍できている要因はどこにあると思いますか?

「近年は単純な持久力だけでなく、ボルダリング的な瞬発力を求められる傾向があります。リードとしては高い壁でロープを付けて練習できることが一番ですが、ボルダリングジムでの練習も活かせるルートの傾向になってきていることが大きいと思います」

リードの課題の中にボルダリング的な要素が増えてきているということですが、どういう意図があるのでしょうか?

「私が現役の頃は、壁に小さなホールドがたくさんあって、選手としては普通ですが、遠くにいる観客からはよく見えないホールドを選手たちが登っているように見えるわけです。それではあまり面白くないだろうということで、ボルダリングでも使われるような大きなハリボテなどをたくさん付け、動きとしてもダイナミックなものを要求して観客を楽しませる、という意図があると思います」

日本もリードW杯などでまた徐々に結果を残せるようになってきましたが、欧米と比べるとトレーニング環境の面に違いはあるのでしょうか?

「リードのジムは欧米のほうがたくさんありますし、リードという種目自体もメジャーだと思います。日本にもリードのジムはありますが、壁の高さが少し低かったり、数自体が少ないです。建築基準法の関係で高い壁を建てづらい環境にもあるので、難しい問題ですね」

競技者の数にも差があるのでしょうか?

「大会に出る選手の数もそうですし、一般の人がどれだけリードに触れているかという点でも大きく違うと思います。ドイツのミュンヘンにあるジムに行ったことがあるのですが、出勤前のサラリーマンがジムに来てリードを軽く登ってから、スーツに着替えて出勤するという光景がありました」

リードを登ることが日常の中にあるのですね。

「そう思います。サラリーマンが出勤していった後にはお年寄りが、夜になると若者たちが登りに来ていました。どちらかといえばボルダリングよりもリードのほうが人気があり、その市民権は根強いものがありますね」

ジムの規模も日本とは違うのでしょうか?

「先ほどのミュンヘンのジムもかなり広いリードジムの中にボルダリングの壁もあるという感じでした。日本は小さなボルダリングジムが各地に色とりどりあるという感じですよね。そもそも欧米と日本ではジムのコンセプトが違うのだと思います」

 
 

選手たちの目標となる環境作りを

羽鎌田さんはIFSC(国際スポーツクライミング連盟)とJMSCA(日本山岳・スポーツクライミング協会)が主催するどちらの大会にもジャッジやテクニカルデリゲイトとして関わった経験がありますが、運営面で違いはありますか?

「日本の大会運営は世界の中でも高いレベルだと思います。東京五輪があることで注目されていますし、協賛していただいている企業様がたくさんいます。また、テレビやYouTubeでの中継もありますし、他のメジャーなスポーツにも劣らない運営レベルだと自負しています」

IFSCからはどんな評価なのでしょうか?

「国内で開催するW杯や世界選手権ではIFSCから審判が派遣されるわけですが、彼らに『やることがないくらいだ』と言われるほど、日本のレベルは高いですね。それはここ数年で多くの国際大会の運営を経験したことが大きいと思います」

羽鎌田さんは「スポーツマネージャー」という肩書きで今大会の運営に携わっていますが、どのような役割なのでしょうか?

「大会の中で選手と競技に関する部分を調整しています。具体的には競技の日程を決めて、それに対して会場のスケジュール調整や備品の手配を行うことなどが主な役割になります」

今大会の注目ポイントはありますか?

「東京五輪に出場が決まっている4人がどんなパフォーマンスをするのか、そしてこのLJCに出場するためのジャパンツアーを勝ち抜いてきた選手がどれだけ上位層に食い込んでいけるのかに注目しています」

このコロナ禍においても、今年もLJCが行われるわけですが、今大会はどのような位置付けになりますか?

「今年はW杯が全戦開催されるのか危ういところがありますし、すでに上半期の大会が後半に移っているものもあります。選手たちにとっては先が見えづらい中で、せめて国内大会だけでもしっかりと開催して、目標となる大会の環境を作ってあげることが大事だと思っています。コロナ対策で気をつけなければいけない点はたくさんあり、運営としても負担は増えていますが、それでも選手やクライミングファンのために開催することが重要ですし、運営としても定期的に大会ができなければ運営ノウハウのブラッシュアップができません。選手、ファン、運営。この3つを考えて、こうしたコロナ禍でもなんとか開催したいという思いでやっています。これからも多くの人にとっての良い大会となるように、良い準備をしていきたいと思います」

 
「第34回リードジャパンカップ」大会特設サイト

CREDITS

取材・文 篠幸彦 / 写真 窪田亮 / 協力 JMSCA

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PROFILE

羽鎌田直人 (はかまだ・なおと)

元日本代表選手であり、現在は「テクニカルデリゲイト」「スポーツマネージャー」などの肩書きで大会運営の中心を担う。いまの日本では唯一、審判の国際資格も保有している貴重な人材。

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