FEATURE 121

東京五輪 直前インタビュー

楢崎智亜 金メダルで、クライミング人気を爆発させたい


「完成度の高さを見てほしい」。そう語るエースは自信に満ちあふれている。クライミングをもっとメジャーにするために、楢崎智亜が狙うは優勝のみだ。

※本記事の内容は2021年6月発行『CLIMBERS #020』掲載当時のものです(このインタビューは2021年6月11日にオンラインで収録されました)。
 
 
まずは久々の出場となったW杯のソルトレイクシティ大会(5月28〜30日)について、スピードの感想から教えてください。

「フライングで終わってしまったんですけど(予選最下位)、壁のフリクションが普段とは程遠いザラザラ感で『トモアスキップ』で加速するのがかなり難しく、それを考えてスタートで攻めた結果、うまくいきませんでした」

この大会では世界記録が2度も更新されました(キロマル・カティビンが5.258秒、ヴェドリック・レオナルドが5.208秒で優勝)。

「インドネシアの2人のことはもともとインスタグラムで見て知っていたので、生で観たいとワクワクしていました。目の前で世界記録が出て、感動しましたね」

楢崎選手の自己ベスト(5.72秒)との差は約0.5秒。その差は大きいですか?

「とてつもないですね(笑)。15mしか登らないのに、0.5秒も離れているので。僕も5.5秒くらいは出せる感覚があるんですけど、キロマルは練習で5.0秒台を出している。相当な練習量だと思います。出力が高い上に一手一手が正確で、出力を上げると普通の選手はぶれてラグが生じるんですが、それがまったくない。自分とは圧倒的にラストのムーブの速さが違います。彼が5.0秒台を出した時、前半は僕と同じタイムなんですけど、後半部分で0.7秒くらい違いました」

同大会のボルダリングでは3位でした。出国前の会見で「自分の苦手なゆっくりした動きや、重心を下に置き続けて登ることを確認したい」と話していましたが、実際はどうでしたか?

「決勝では練習してきた動きの入った課題があまりなかったんですけど、準決勝2課題目のゴール取りだったり、いい感触だと思える瞬間はありました。あとは久々のW杯で観客もいて楽しくなっちゃいましたね。予選の1本目でもうガッツポーズしてましたから(笑)。やっぱり観客がいると盛り上がりますし、完登すると気持ちいいです」

ボルダリングW杯の第1、2戦は肘の怪我の影響で欠場されましたが、五輪本番でライバルになり得る調子の良い海外勢はいましたか?

「やっぱりアダム(・オンドラ/チェコ)ですかね。直接戦いたかったんですけど、怪我で欠場になってしまって残念でした」

五輪への仕上がり具合はいかがですか?

「ボルダリングで言えば、ほとんどの課題を登れる感じはしています。あとはメンタル面だったり、トライしながらのムーブの選択だったり。フィジカル面を上げていくというよりは、そういった部分を磨いていこうと思います」

今後どの種目に時間を使っていく?

「基本的にはバランス良くやっていきますが、リードの比重はそこまで上げないと思いますね。ここから特別に実力をつけるには時間が足りないので、強度の高い課題を単発で打ち込んでいく感じになると思います」

先ほど挙がった対オンドラで言うと、コンバインド競技の進め方のイメージはありますか?

「アダムはスピードがそこまで速くなっていないと思うので、スピードで僕が2位以上を取ることと、ボルダリングで絶対負けちゃいけないということ。そこは考えていますね。スピード2位以上、ボルダリング1位で、(最終種目の)リードを迎えられればと考えています」

やはりまだリードに関してはオンドラに一日の長があると。

「そうですね、正直勝てる確率は低いと思います。さらにヤコブ(・シューベルト/オーストリア)や(ドイツのアレクサンダー・)メゴスもいます。メゴスはボルダリングの緩傾斜課題がうまくなっていると思うので、それがハマれば3人とも決勝に残るかもしれません。オリンピックのリード壁ってそんなに長くはないので、下部が突破系で、上部に核心があり、そこをこなせるかどうかという勝負になればチャンスもあるはず。持久力はこの1年でだいぶついたという自信があります。ただ、彼らも同じように持久力はつけていると思いますが」

競技当日まで2カ月を切りましたが、日頃から五輪をイメージすることはありますか?

「こういうパフォーマンスをしたい、とイメージは常にしていますね」

楢崎選手は早い段階から五輪での金メダルが目標だと公言してきましたが、これまでの道のりは順調でしたか? それとも苦労があった?

「順調だと思います。苦難と言ったら、今年痛めた肘くらいですかね。1カ月ほど休んでしまったので、そこが一番きつかった」

コロナ禍での五輪開催について、思うところはありますか?

「どう転んでもしょうがないと思いますが、大会があるならば、オリンピックで日本を代表して戦える数少ない機会なので、今できることをしっかりしていきたいです。ソルトレイクシティでも感じましたけど、応援したり、みんなでエネルギーを共有し合うような感覚ってやっぱりいいなと思ったので、それを少しでも自分のパフォーマンスで伝えたいですね」

この先のクライミング界のため、東京五輪をどのような場にしたいと考えていますか?

「クライミングをメジャーな競技にしていきたいという思いは昔からずっと変わっていないですし、そのためにオリンピックは最高の機会だと思います。クライミングの知名度がオリンピック効果で上がってきている中、メダルを取って、さらにそれを爆発させたいです。オリンピックを観て『かっこいいな』『面白そうだな』と感じて、クライミングを始める子どもたちが増えてくれたら嬉しいですね」

スポーツクライミングを五輪で初観戦する方も多いと思いますが、自分のどんなところに注目してほしいですか?

「選手としての完成度の高さですかね。2018、19年の頃と比べると、できることの幅が広がりました。決勝に残れれば、そのメンツの中では背が低いほうになると思うので、日本人の小さい選手がアグレッシブに跳んだりする動きや、失敗を恐れずに攻める姿を見てほしいです」

最後に、五輪での目標を教えてください。

「目標はもちろん金メダルです。スピードでは自己ベストを更新できるように、ボルダリングではどんな動きが求められても対応できるようにして、リードでもトップ選手のアダムやヤコブと対等に戦えるくらいにまでなりたい。しっかり本番の舞台までに準備をして、最高のパフォーマンスを発揮したいと思っています」

CREDITS

インタビュー・文 編集部 / 写真 Andy Bao/Getty Images

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PROFILE

楢崎智亜 (ならさき・ともあ)

1996年6月22日生まれ、栃木県出身。TEAM au所属。ボルダリングでW杯年間優勝2回、世界選手権優勝2回の実績を誇り、スピードでも日本人初の5秒台に到達。最初の代表選考大会となった世界選手権2019コンバインドを制し、五輪出場を決めた金メダル最有力候補だ。(写真:窪田亮)

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