FEATURE 111

安田雅輝|UNDER BLUE HOLD

シェイパーを訪ねて


東京都東大和市にある有限会社ホッチホールド。ここには国内外の公式戦や様々な商業ジムで使用されている、国内有数のホールドブランド「UNDER BLUE HOLD」(UBH)の工房がある。数々の名作を生み出しているのは、シェイパーの安田雅輝さん。ここではハリボテ(壁形状の延長になるものや、大ぶりなものを指すことが多い)を含む製作ホールドの半分以上がプラスチック製だが、そのすべては「原型」をもとに作り出されている。原型を作り出す作業、または完成されたホールドの形の総称をシェイプと言い、シェイプを行う職人を“シェイパー”と呼ぶ。長年シェイプを続ける、安田さんのもとを訪ねた。

 「削っている瞬間が、めちゃくちゃ楽しいんです。角ばっているものが丸くなっていくのって、すごく興奮します(笑)。これでお金がもらえるって、なんて幸せなんだろう」。安田さんはシェイプ中、時折笑顔を見せながら、そう答えてくれた。しかし苦労もあるという。「速い時は勝手に手が動くくらいの感覚でできるんですけど、『どう作ろうかな』と悩んでいる時は何をやってもダメ。そういう時ってありますよね」
 
 ホールドとハリボテで製作工程は異なる。ホールドは、作られた原型の周囲をシリコンで固めて型を取り、その型にあらかじめ色付けされたプラスチック樹脂を流し込んで完成する。「プリンを作るのに容器がいりますよね。その容器を作るのに原型が必要だと考えれば、わかりやすいと思います」。ホールディングを可能にするフリクションは、原型の表面のザラザラ感がそのまま型に付くため、形となったホールドはすでに摩擦のある状態になっている。
 

 
 

ハリボテはゼロから最後まで手作り

 
 UBHが世に出すホールドは、すべて安田さんがシェイプ。そしてボルト穴の箇所の指定などをした上で、原型は欧州でシェアの大部分を担うブルガリアの工場に送り、それ以降の工程はそこで行われる。以前は生産まですべて1人(!)でこなしていたが、増える需要に追いつかなくなったために海外委託の割合を増やしていった。ホールド専用樹脂は工場側が開発したもので欧州の安全基準に適応しており、生産性も高く、トータルで考えると国内で生産するよりもはるかにコストは安く抑えられるという。
 
 ハリボテに関しては、木製のすべてとFRP(繊維強化プラスチック)製のほとんどを安田さんが手作業でゼロから最後まで手作りしている。大きさのあるハリボテは輸出入のコストがかかり、また木製の場合は「細部のクオリティが落ちてしまう」からだそうだ。安田さんは「ホールドをシェイプして、ハリボテ製作も全部やっているなんて、世界的に見てもいないんじゃないかな」と笑う。
 

 
 木製は原型をシェイプする作業がないため、図面をもとに一つひとつが手作り。型にガラス繊維の入ったグラスファイバーを貼り付けて作るFRP製もそうだ。いずれもゴルフのバンカーなどで使われる珪砂(けいさ)などを付けることでフリクションを与え、塗料で色付けして製品は出来上がる。地道な作業が続くが、安田さんは「自分がシェイプしたものができればできるほど、世界中の人たちが触ってくれる。世に残るものを生み出せるということが、この仕事の醍醐味でもあります」と話す。
 
 「『あれ触ってみたい』って思ってもらえると、作る側としては嬉しい。大袈裟ですけど、それで人生が変わるような人がいたりすると最高ですね。例えばうちのハリボテを見て『クライミング面白そうだな』と思って始めて、その人がジムオーナーになるとか、選手として強くなるとか。これは何にでも言えることだと思うんですが、人の心を動かせることって、楽しいですよね」

 
 

ホールドはどう作られる? UBHの製作現場に潜入

 
 

ウレタンブロック


UBHでは原型を作るのに、主にポリウレタンが原料のウレタンブロックを使っている。これをのこぎりや電動工具などである程度の大きさに削る。
 

シェイプ


ウレタンブロックをある程度の大きさにしたら、カッターやヤスリで思い思いの形にしていく。速い時は「勝手に手が動いていく感覚」なのだとか。
 

ホールドの型


原型の周囲にシリコンを流し、型(右)を作る。その型にプラスチック樹脂を流し、ホールドが形となって現れる(左)。シリコンを使うのは、複雑な形状でも型が柔らかく外しやすいから。ホールドの原料にはポリエステルが使われてきたが、ここ10年で軽く耐久性のあるポリウレタンが主流になった。ポリエステルと比較すると経年劣化しやすいが、UBHで使用されている欧州製のポリウレタンはそのデメリットを解消しているという。(この工程は海外工場に委託している)
 

肉抜き


ホールドの大型化に伴い、軽量化のため内部を空洞にする肉抜きの技術が発展した。高価なプラスチック樹脂の量を減らす意味合いもある。ホールドの場合は、原型の80%ほどの大きさの“第2の原型”を作り、型同士を合わせると生じる溝に樹脂を流す。
 

“木ボテ”と設計図


UBHのハリボテの半分は木製。大きさや切る角度などの図面を引き、海外から輸入した特殊なベニヤ板を接着剤などで組み合わせていく。「木製でも完成形を考える時、『いいシェイプが思いついた』なんて僕はよく言うんです。形を考えるのもシェイパーの仕事ですから」
 

フリクション


その大きさなど規模が異なるハリボテに対して、フリクションを施す工程はホールドと異なる。UBHではFRP製の場合、原型をツルツルにし、それをもとにして形作られたハリボテに珪砂(写真)などを付ける独自の方法を取っている。木製にも同様にして摩擦を与える。

CREDITS

取材・文 編集部 / 写真 鈴木奈保子

※本記事の内容は、2020年12月末発行の『CLIMBERS #018』掲載当時のものです。
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