FEATURE 109

After Recording…

三者三様のホールド物語


普段は異なる立場からホールドと接している木織隆生氏、平嶋元氏、植田幹也氏の3人。座談会を終えた後、それぞれのホールドとの関わりやエピソードを聞いた。

※本記事の内容は2020年12月発行『CLIMBERS #018』掲載当時のものです。
 
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木織隆生
“人気になるのは、セッターさんのおかげ”

 

 
 ホールド輸入業を始めたのは、1997年に大阪でクライミングジム「CRUX」を開業する少し前でした。今と比べると輸入代理店もホールドの種類もまだまだ少ない時代。その当時に過去に類を見ない新しいホールドを出していたのが「Pusher」でした。「Pusher」のメンバーとはアメリカでの岩登り仲間という繋がりがあり、うちが輸入元にならないにしても、どのみちどこかから買ってジムで使うだろうなと思っていたので、「だったら自分らでやるか」と輸入代理店業を始めました。ホールドを取り扱ってみたいという単純な興味がありましたし、「新しいものが生まれてきている」という期待感も大きかったですね。
 
 「Teknik」がここまで有名なメーカーになるとは予想していませんでした。なにせ「The Boss」(写真)のように突拍子もないサイズや複雑さ、奇抜さのほうが評価される時代でしたので。それに比べると「Teknik」は見た目がシンプルで、味気ないというか。反対にトレーニングには持ってこいで、小型で手順調整などもしやすく、セッティングがしやすいんですよ。だからジムで使うのには良かったんだと思います。でも、これはどのメーカーさんもそうだと思いますが、人気になったのはセッターさんのおかげです。彼らの創造性と挑戦が、ホールドの新次元の料理法や感動的な選手の登りを見せてくれる。ホールドの魅力を発信してくれるんです。
 
 自分が登っていて、かつホールドの流行りについていける限りは、この仕事を続けていくと思います。「こういうシェイプもあるのか」と驚かされることはありますが、でもまだ「なるほどね」っていう感じで。自分の感覚が「これはもうまったくわからんわ」ってなったら、引退かなと(笑)。そうなるとホールドのいいところがお伝えできないと思うので。

 
 

平嶋元
“昨年、念願だったシェイプを始めました”

 

 
 僕がクライミングを好きになったきっかけはホールドなんです。クライミングを始めた23歳の時、当時いた新潟にできたジムに行ったところ、「Stone age」というブランドのホールドをすごく気に入ってしまい、思わずジムの人に「貸してください」って言ったんです(笑)。レモンを半分にして巨大化したような形で、いわゆるスローパーなんですけど、初めての僕にそんなの持てるわけがなく、でもそれを掴んで登っている人がいた。あまりにも不思議だったし、そういった形状の存在にすごく違和感があり、逆に興味が湧いて「明日も来るので、ちょっと貸してもらえますか?」って。そのやり取りが何度かあって、そのたびに壁に付いていたものを外してもらいました(笑)。
 
 家でもずっと持っていたくなっちゃうんです。いろいろな形状があることに、純粋に惹かれてしまったんですね。自宅には昔からお気に入りのホールドを飾ったり手元に置いたりしています。ずっと触っていると落ち着いて、ジムでもホールドを触りながら会話したり。セッターにそういう人は多い気がします。
 
 ホールドには可能性があります。僕は今それを使いコースを作っていますけど、いろいろな想像をもって作られたものを、また一段階加速させられるようなところに自分がいると思っています。そこがまた面白いですし、魅力を感じていますね。
 
 2019年から「TENTOMEN」というホールドメーカーが動き出し、その一員として念願だったシェイプをしています。2021年春頃の発売に向けて、試行錯誤を繰り返す日々です。様々なブランドのホールドが仕上がってきている中、僕らは新参者なので、しっかり努力していかなくちゃいけない。身が引き締まる思いです。

 
 

植田幹也
“解説者としてホールドの魅力も伝えたい”

 

 
 今回の座談会であらためて木織さん、(平嶋)元さんはホールドが本当に好きなんだなと、相当な熱量を感じました。木織さんはご自身でホールドを輸入販売されていますし、元さんは一度自宅にお邪魔したことがあるんですが、家の壁にホールドを絵画のように飾っていたほど(笑)。それに比べたら僕なんかはまだまだニワカで、知らないことが多かったです。
 
 僕がホールドに対してもっと知識を得ようと思ったきっかけは、大会で実況解説をするようになってからです。例えばインスタグラムで片っ端からホールドメーカーをフォローしまくって、情報をキャッチするようにしました。ホールドの種類がわかっていないと持ち感などがわからず、解説する自分が課題の難しさを把握できませんから。実際の実況解説では、課題に使われているホールドの名前や種類をある程度カテゴライズして伝えることに努めています。そのほうが視聴者の方に伝わるかなと思い、あえてマニアックなホールドの名称を言うことも意識していますね。なにより解説者として、少しでも多くスポーツクライミングの魅力を伝えていきたいんです。
 
 クライミング仲間とホールドの会話をすることも多いです。僕が店長を務めている「ライノ&バード」(東京都荒川区)では、スタッフが個人でホールドを購入するくらい好きで、ジムのセットで付けるのに自費で買ったり、日常的に「ヤフオクでこんなのが出てたよ」といった話をしたり。やっぱりみんな、ホールドが好きなんですよね。

CREDITS

取材・文 編集部 / 写真 鈴木奈保子

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