FEATURE 26

裏方プロフェッショナル #005

内藤直也(『クライマーズ・バイブル』著者・総合プロデューサー)

クライミングを愛する人へ…生涯を懸けて

これが私のクライミング道。舞台裏で“壁”と向き合うプロに迫ったインタビュー連載。第5回は、クライミングジム「PUMP」グループの代表で、このたび長年の指導ノウハウをまとめた集大成の大作『クライマーズ・バイブル』を上梓した内藤氏に話を聞いた。

※本記事の内容は2017年12月発行『CLIMBERS #006』掲載当時のものです。
 
 
ご自身がクライマーで、「PUMP」グループの代表を務められる内藤さんが、今回このような本を作ろうと思ったきっかけは?
「大きく2つあります。まず、私は四半世紀にわたりクライミングジムを運営し、クライマーを育てる仕事をしてきました。どうしたらクライミングが効率的に上達するか、その集大成をまとめたいという思いです。もう1つは、クライミングは非常に負荷が強いスポーツなので怪我・故障をしやすい。私自身、10年ほど前に腰を痛めたのですが、同じようにPUMPに来るお客様の中にも故障に悩む方が多かった。そこで2012年、怪我・故障のしにくい登り方を探ろうと研究会を立ち上げました。本書はその研究成果をまとめたものでもあります」

その研究会とは、どんなものですか?
「正式名は『クライミング上達理論研究会』。社内のW杯経験者、日本代表監督、国際ルートセッターをはじめ数人の識者が参加し、毎週開催しています。効率的な上達のためにはどうすべきか、故障しないためにはどうすべきかという2テーマに加え、最近はキッズ向けの指導に関しても研究しています。毎週、各メンバーが情報を出し合い、議論を繰り返してきました」

本書は上下巻ですが、その構成は?
「上巻は『理論編』として、効率的な上達のためにまず知っておきたい知識を体系的にまとめました。下巻は『トレーニング編』で、実践的なメニューを収録しています。実際にジムに持って行き、使ってもらうイメージですね」

この本で最もこだわったポイントは?
「登攀フォームですね。上巻の冒頭40頁がそれについてで、ここに4年もの時間がかかっています。日本に限らず世界中に技術書はありますが、登攀フォームの観点は一切ない。どんなスポーツにも理想的なフォームというのがあるけれど、クライミングの場合はみんな自己流で、そもそもフォームという概念がなかった」

正しいフォームを身につけると、怪我・故障をしにくくなるのでしょうか?
「“美しく登る”ことができます。そして美しく登れるということは、人間が持つ体の機能を最大限利用して登れるということ。効率的に体の機能を引き出すことで、無理がなくなり故障する確率は下がります。従来のトレーニングというと、筋トレなど体を『強くする』ものが中心でしたが、正しいフォームを習得するためには体を『整える』ものが必要になる。漫然とやっていたものを、意識的に体のパーツごとに鍛える、整えるように変えていくわけです」

どんな人に読んでもらいたいですか?
「強いて言えば、生涯スポーツとして長く続けたいと考えている方に。もちろんコンペで勝ちたいという競技志向の方にも役立つ本ですよ。こんな理論、アプローチがあるんだと知ってもらうことで、自身のクライミングを考えるきっかけになればと。特に若い世代の人はこの本を読むことで、我々の世代が失敗してきた30年間をショートカットできるわけですから」

 

 

本書とPUMP CLIMBER’S ACADEMY(2017年10月オープン)の関係は?
「本にある練習法を実践しようとした時、ジムの環境ではなかなかやりにくい。PUMPを含め既存のジムはお客様が『楽しむこと』を主眼に置いています。一方、PUMP CLIMBER’S ACADEMYの主眼は『トレーニングすること』。理想にはまだ遠いですが、他では不可能なトレーニングをここではできるようにしています」

内藤さんご自身のこれからの夢は?
「クライミングを愛する人たちが幸せになれる環境を提供し続けていきたい。この本もまだ完成したと思っていません。より良い方法があるかもしれない。本を出したことで大勢の人に検証してもらえればフィードバックがあるはず。バイブルと名づけられた本であり、僕が生涯を懸けて続けていく仕事だと思っています」

CREDITS

インタビュー・文・写真 編集部

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