FEATURE 25

伊藤ふたば(フリークライマー)

クライミングと、生きていく

優勝したいって口に出しちゃえば…頑張れる

気の早い大人たちが東京2020で飛躍する姿まで想像してしまうスーパー中学生。2017年、野口啓代に「一途!」な少女は、1月に14歳で日本王者に輝くと、ユースレベルで7月にはアジアの、9月には世界の頂点に立った。可愛らしい笑顔が印象的な一方、自身のクライミング人生について常に「目標は高く」明確なビジョンを描く姿勢がとっても頼もしい15歳。自然体な伊藤ふたばの魅力が詰まったロングインタビューをお届けしよう。

啓代ちゃんに勝ったBJC
「自分は追う立場。まだまだ追いかけたい」

競技者だったお父さんの影響で小学3年生の時にクライミングを始めたそうですが、それ以前は別のスポーツをやっていたのですか?

「ダンスをちょっとやってた程度ですね。ヒップホップなんですけど、近所の教室に週1回くらい遊びに行っているような感じで」

きっとダンスの才能もあったのでは?

「なかったと思います(笑)。なのでクライミングを始めたら、すぐ夢中になりましたね」

2014年からは公式コンペにも出場されています。特に思い出に残っている大会は?

「公式戦ではないですが、始めた頃のTHE NORTH FACE CUP。3年生で初めて出て、4年生の時に優勝したのをすごく覚えています」

国際大会で印象的なのは?

「去年のワールドユース(IFSC世界ユース選手権)かなあ」

ユースBのボルダリングで2位になった中国・広州の大会ですね。優勝は1歳年上の白石阿島選手でしたが、この大会を振り返ると?

「予選や準決勝で誰も登れない課題を完登できたり調子は良かったんですけど、決勝は負けてしまいました。でも、前に一緒に登った時よりも阿島ちゃんに近づいてきているなと感じられて。もう少し頑張れば勝てたりするのかなって、ちょっと自信も付いた大会でした」

阿島選手とは大会中も話をされたり?

「そうですね、連絡先も知ってますし」

彼女のクライミングをどう見てますか?

「やっぱり岩場での強さが印象的で、体幹がとても安定してるなって。リードでの登りを見ていても、あの持久力は凄いなと感じます」

その後、伊藤選手は今年1月のBJC(ボルダリングジャパンカップ)で史上最年少優勝を成し遂げます。ご自身が考える勝因とは?

「緊張せず、自分のベストの登りをして、楽しんで生き生きとできたのが良かったかなと」

まったく緊張しなかった?

「しなかったですね。どんな感じの課題なんだろう?という緊張はあったんですけど、プレッシャーでドキドキみたいなのはなくて。(野口)啓代ちゃんや(野中)生萌ちゃんをはじめ、強い人たちがたくさん出ている大会で自分は追う立場なので、他の選手のことはあまり気にせずに重圧もほとんどなく臨めたと思います」

代々木の会場には大勢の観客が集まりましたが、ギャラリーの目も気にならず?

「あまり気にならないですね。それに私は、歓声や応援があった方が嬉しいと思える方なので。盛り上がっている方が楽しいですから」

大会前後には「憧れの野口選手に追いつきたい」という発言をよくされていました。1回のコンペですけれど、実際に目標の存在を越えたというのはどんな感覚なのですか?

「勝っちゃった、みたいな感じです。でも、また次に戦って勝てるかと言われたら決してそうじゃない。最近も一緒に登りに行かせてもらったんですけど、その時も啓代ちゃんはすごく強くて、敵わない部分がたくさんあるなと実感しました。だから、憧れであるのはずっと変わらない。まだまだ追いかける存在ですね」

BJC後は多くの取材を受けるようになったと思います。周囲の反響はどうですか?

「クライミングをされている方はもちろん、やっていない方にも声をかけていただくようになり、自分を知ってくれる人が増えたなと」

それを重圧に感じる選手もいますが。

「私の場合、それは大丈夫です」

学校ではどうですか?

「普通に『おめでとう』ってみんなに言われたくらいですよ(笑)」

ご家族も喜んでくれたでしょうね。

「はい。周りの方から私の載った新聞をもらったりもして、集めたり切り抜いたり(笑)」

 

 
 

心強い仲間、力強さの秘密
「曽我綾乃ちゃんと常に笑ってます(笑)」

 
今シーズンは7月のアジアユース選手権でもボルダリングで3連覇を達成し、リードも3位入賞を果たしました。

「ボルダーは、あまり調子が上がらなかった予選から気持ちを切り替えて決勝を戦えたのが良かったです。ただリードでは、持久力がまだまだだなとか登り込みが全然足りないなとか、いろんな課題が見つかって。もっと頑張らなきゃと気を引き締める機会になりました」

リードで優勝したのは1歳年下の森秋彩選手でした。彼女の登りにはどんな印象を?

「登っている時の重心の位置とか抜き方とかがうまいなって。私より身長は小さいけど、常に思い切った登りができて凄いと思います」

この大会ではスピードにも出場しましたが、予選を通過した後のラウンドにおいてフライングで失格、8位という結果でした。

「自分では全然わからず、隣の相手より速くて良かったと思ってタイムを見たらフライングと記録されていて、えっ!?って。スピードはあまり練習できてないので、これからです」

8月30日からは今年のワールドユースがオーストリアのインスブルックで行われます。

「ボルダーでは今年こそ優勝したいですし、去年は決勝に残れなかった(9位)リードでも優勝を目指したいです。スピードは、まだワールドユースで出場経験がないので何位を狙えるかもわからないのですが、とにかく自己ベストのタイムを出せたらなと。目標は高く(笑)」

編注:ボルダリングでは決勝で唯一の全完登を達成して見事に優勝。リードは3位、スピードは34位(惜しくも自己ベスト更新はならず)だった。

日本の選手はみなさん一緒に移動されることが多いですが、特に仲が良い選手は?

「埼玉の曽我綾乃ちゃん。始めて1年くらいしてからかな、ずっと仲良しなんです」

学年は1つ上ですけど、気が合いました?

「そうですね、2人でいてすごく楽ですし、なんか考えてることが一緒なんですよね。同じことを同時に言っちゃうとか(笑)」

面白エピソードが何かあれば。

「そう言われたらないけど……(笑)、でも常に笑ってます。家は岩手と埼玉で離れてますが、大会で会う他にも、私が関東に行く時は一緒に登りに行ったり、たまにお互いの家に遊びに行って泊まったりとかもしています」

海外の選手では、注目している、あるいは参考にされているクライマーはいますか?

「今はもうワールドカップに出ていないですが、ジュリアン・ワームというドイツの選手」

どんな登りをされるのですか?

「身長は大きくないのですが、思い切ってダイナミックに行って、力強さもあって、小柄さを感じさせない登りがカッコ良くて好きです」

トレーニングについても伺いたいと思います。週に何日ほど登っていますか?

「週4日か5日で、平日は学校が終わってから3時間くらい、休日は5時間くらいです」

専属コーチを付けず、自分で課題を考えて作ったりもして練習していると聞きました。

「お父さんにも『ここ足りないんじゃない?』と指摘してもらったり、その鍛えるべき部分を強くするためにこういう練習をしようとか、課題を作ろうとか相談しながらやっています」

筋トレに関しては、少し前までは積極的にやられてはいないとのことでした。今は?

「最近、自重トレーニングはやり始めています。体が成長中の時期はあえてやらない部分もありましたけど、身長も止まってきたのでそろそろやっていこうと。今は特に下半身、脚全体の強化ですね。やっぱり下半身が安定していないと上半身がブレてしまうこともありますし、ボルダーやスピードでは蹴る、跳ぶといった動作に必要な筋力はもっとあった方がいいと感じています。今後は、少しずつフィジカルを鍛えていけたらと思っています」

ご自身の登りで、ストロングポイントだと感じている部分は?

「柔軟性とか、重心移動とかでしょうか」

重心移動が強みというのは、具体的にはどういうムーブが得意になるのでしょう?

「スローパーを持って下にしっかり入ってから動くとか。ホールドを悪いポジションで持っていると、やっぱりスムーズに課題を攻略できないので、そのホールドを良いポジションで掴むための重心移動みたいな感じですね」

 

 
 

私は目標をズバッと言う
「私、優勝したいって言ってるな」

 
16歳の誕生日を迎える2018年は、いよいよワールドカップに参戦が可能になりますね。

「ずっと出たい、早く出たいって思っていたので、来年がすごく楽しみです」

日本代表として出場権を獲得できたとして、リードとボルダー、どちらも出たい?

「ボルダーは全戦に出場したいです。リードもまずは何戦かに出られたら出たいなと」

毎年、開催地はほぼ決まっていますが、ここに出たい!という憧れの大会はあります?

「やっぱりベイル(アメリカ)やミュンヘン(ドイツ)かな。盛り上がりが凄いんです。特にミュンヘンはヨーロッパ中の強いクライマーが出場する大会なので、挑戦したいなって」

その先には2020年の東京オリンピックがあります。この3年後の舞台については?

「出場したいという気持ちはあります」

現状の出場枠は男女とも全体で各20人、各国最大で各2名という非常に狭き門です。

「そうですね、まず日本代表になるのがとても難しいというのはわかっています。そこに向けて1年1年、頑張りたいと思っています」

以前には、22歳で迎える次の五輪、2024年パリ大会もご自身で見据えていて、さらに世界選手権とワールドカップを含めた「3冠を獲りたい」という意気込みを語っていました。

「目標というよりは夢です。そんなことができたらカッコいいな、みたいな感じですね」

伊藤選手は、そうやって目標をズバッと言うタイプですよね。あまり明かさず黙々とやる選手もいて人それぞれですが、目標を口に出すというのは意識してやっていることですか?

「『優勝する』って言わないと何も始まらないじゃないですか。優勝したいって口に出しちゃえば、やっぱり無理かなってなったとしても、それに向かって私は頑張れます。それに自分の周りでも、優勝したいんだなと思って協力してくれる人がいたりするので、そういった部分でもプラスになるかなと考えているんです」

自分にプレッシャーをかけるというか。

「自分の目標を口に出して、頭だけじゃなくてちゃんと耳からも理解する、みたいなイメージですね。私、優勝したいって言ってるなって」

“クライミングは人生そのもの”ということも、はっきり口にされていました。同年代には人生を懸けて打ち込むものをこれから探すという人も多いはずですが、伊藤選手は違う。

「そうですかね。ただ、だからって不安になったりすることも全然ないんです。私はクライミングが大好きで、ずっとクライミングと関わっていきたいと思っているから」

そこは迷うこともなく?

「はい。私はクライミングで生きていきたいので。やっぱりクライミングが好きですね」

そう思うようになったのはいつ頃? コンペで結果が出るようになってからですか?

「いつだろう、何歳かはわからないですけど、気づいたらって感じです。単純に登っているのがすごく楽しくて好きなので。それに結果が出なかったとしても、大好きな啓代ちゃんと一緒にセッションできてる、みたいなところだけでも楽しい。コンペに出るのも楽しいですし」

お話を聞いていても、野口選手から受けた影響は大きいようですね。それはどのへんに?

「どのへん……全部です(笑)。クライミングに関してはもちろん、その人柄もですね」

普段どういう会話をされるのですか? コンペ会場で一緒にいることも多いですよね。

「はい(笑)。いろんなことを話しますよ。けど、クライミングのことが多いかな。年上だから、みたいなのは一切なくて、気軽にしゃべっていて。啓代ちゃんが優しいから、そういう感じになってるんだと思いますけど(笑)」

クライマーに限らず、尊敬するアスリートっていますか?

「……」

では野口さんということで(笑)!

「はい! 一途です(笑)」

 

 
 
遠征が多いと、お父さんをはじめご家族のサポートもとても大事になると思います。

「いろんな大会に連れて行ってくれて、すごくありがたいです。岩手の協会の方々にもたくさんお世話になって、本当に感謝しています」

あらためて、将来の目標は?

「ワールドカップで年間優勝です」

それはボルダーで?

「ですね。ずっと啓代ちゃんの試合を見て、ボルダーで優勝する姿を見て、そうやって育ってきたので、それに出たい気持ちが強いです」

野口選手が2連覇しているので「私は3連覇したい」と宣言していましたね。

「どんどん強い選手も増えて難しくなってきていると思うんですけど、そうやって目標を高く持つことで、もっと強くなりたいです」

同年代、さらに下の世代でもクライミング人口は拡大していますよね。すでに伊藤選手に憧れて始めた小学生や頑張ってますって方もいて、今後ますます増えていくと思います。みなさんにメッセージをお願いします。

「そんなふうに言っていただけるのはすごく嬉しいです。私が啓代ちゃんを見て頑張れているように、伊藤ふたばに向かって頑張りたいと思ってくれる方がいるなら、私も負けずにもっとクライミングを楽しんでいきたいですね。そして将来、一緒に戦ってみたいなと思います」

 

CREDITS

インタビュー・文 編集部 / 写真 永峰拓也 / 撮影協力 エナジークライミングジム 春日部店 ※このインタビューは2017年8月6日に収録されました。

PROFILE

伊藤ふたば (いとう・ふたば)

2002年4月25日、岩手県盛岡市生まれ。小学3年生でクライミングを始め、15年にはユースC年代の日本チャンピオンに。アジアユース選手権でもボルダリング、リードの両種目で優勝を果たす。ユースBに上がった16年も全日本クライミングユース選手権、JOCジュニアオリンピックカップ(ともにリード)を制し、アジアユースでは2種目を2連覇。世界ユース選手権でもボルダリングで2位に入った。迎えた17年1月、ボルダリングジャパンカップを史上最年少14歳9カ月で優勝。その後もボルダリングユース日本選手権、アジアユース(ボルダリング)で王者に輝き、9月初旬にはボルダリングで世界ユース初優勝を飾った。

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